人材戦略とは?人事戦略・戦略人事との違いと策定ステップ、使えるフレームワークを解説

経営戦略と人材戦略の連動を前向きに語り合う担当者たちの線画イラスト

「経営層から人材戦略を立てるよう指示されたが、何から手をつければいいのか分からない」。「人材戦略・人事戦略・戦略人事という似た言葉が社内で混在していて、会議のたびに議論がかみ合わない」。中堅企業の人事部門・経営企画部門で、こうした声を耳にする機会が増えています。

背景には、労働市場の変化によって人材の確保・育成そのものが経営課題になってきたこと、そして人的資本経営という考え方が広がり、人材に関する取り組みを対外的に説明する機会が増えてきたことがあります。前例のないまま「人材戦略を立てろ」と言われても、定義や進め方が分からなければ着手しづらいのは当然です。

そこで本記事では、人材戦略の定義と人事戦略・戦略人事との違いを整理したうえで、立案に使えるフレームワーク、現状把握から実行・改善までの策定ステップ、そして策定・実行の過程で陥りやすい失敗とその対策までを、中堅企業の実務担当者が自社に当てはめやすい形で解説します。

沖岡 豊大

沖岡 豊大

我々は誰もが挑戦の歩みを止めず、
失敗を糧に再チャレンジできる寛容な社会の実現を
目指して活動しています。

創業背景としては、エンジニア起業家の養成スクールで得た気づきがきっかけでした。自身のWhy meをプロダクトに落とし込み、投資家に対してピッチを行うのですが、卒業後も挑戦を”続けられる”人間がごく僅かだということを実感しました。志のある優秀な方でも、リスクを背負い、様々なハードシングスを乗り越えながら進み続けることは、実際には非常に困難です。そこで、起業家に同志として寄り添い、何度でも挑戦し続けられる環境を構築したいと思うようになり創業に至りました。
最終的にわたしもいち起業家として、TechHouse.Worksのサポートを得ながら、新たな事業を創るのが私の夢です。

人材戦略とは何か ― 経営戦略の実現に資する人材の計画

経営戦略から人材像を逆算して考える担当者の線画イラスト

人材戦略の定義

人材戦略とは、経営戦略を実現するために必要な人材を、どのように確保・育成・配置・評価していくかを定めた全社的な計画のことです。採用や研修といった個別の人事業務を指すのではなく、経営が目指す方向性に対して「どんな人材が、いつまでに、どれだけ必要か」を逆算して描く計画である点が特徴です。

単なる人事部門内の業務改善にとどまらず、経営課題そのものを解決する手段として位置づけられるのが人材戦略の本質です。採用・育成・配置・評価という個々の施策は、この人材戦略という全体方針があってはじめて整合性を持ちます。

人材戦略が今、重視される背景

人材戦略が注目される背景には、大きく2つの要因があります。1つは労働市場の変化です。厚生労働省の令和7年(2025年)雇用動向調査によると、同年の入職率は14.7%、離職率は13.7%(一般労働者11.4%、パートタイム労働者19.9%)で、入職者が離職者を上回る入職超過率は1.0ポイントとなりました。離職率は前年から0.5ポイント低下しましたが、入職率・離職率ともに毎年一定の規模で労働移動が生じている状況に変わりはなく、企業が採用した人材をどう定着させ、どう育成するかをあらかじめ計画しておく必要性は依然として高い状況です。

もう1つは、人的資本経営という考え方の広がりです。経済産業省は2020年9月に「人材版伊藤レポート」を、2022年5月には「人材版伊藤レポート2.0」を公表し、人材を「管理すべき資源」ではなく「価値を生み出す資本」として捉え、経営戦略と人材戦略を連動させることの重要性を示しました。また、内閣官房・金融庁・経済産業省は2022年8月に「人的資本可視化指針」を公表し、2026年3月23日には同じ3省庁の連携でこの指針の改訂版を公表しています。改訂版では、開示の重心を指標の網羅的な列挙から、経営戦略と人材戦略の連動をどう説明するかへ移す方向性が示されました。なお、人的資本に関する情報開示は、有価証券報告書を提出する上場企業における開示実務が先行しているものであり、すべての企業への一律の開示義務が課されているわけではありません。こうした潮流により、人材戦略は人事部門だけの話ではなく、経営層が説明責任を負うテーマになってきています。

人材戦略と人事戦略・戦略人事の違い

人材戦略・人事戦略・戦略人事という似た用語の違いを整理する担当者の線画イラスト

人事戦略との違い

人材戦略と人事戦略は似た言葉ですが、重点の置き方が異なります。人材戦略は「どんな人材を確保・育成・配置するか」という人材そのものの計画であるのに対し、人事戦略は評価制度・報酬制度・労務管理といった人事の仕組み・運用をどう設計するかに重点を置く計画です。

両者は重なり合う部分もあり、特に評価や配置は人材戦略・人事戦略の双方にまたがる要素といえます。違いを理解せずに社内で混在させて使うと、議論の焦点がずれてしまいます。「人材が足りない」という課題に対して人事制度の見直しだけで対応しようとしたり、逆に制度設計の課題を人材確保の問題として扱ったりすると、施策が空振りに終わりやすくなります。

戦略人事との違い

戦略人事は、経営戦略と人事機能全体を連動させる取り組みそのものを指す、より広い概念です。人材戦略は、その戦略人事という考え方の中にある具体的な計画パートの一つと捉えると整理しやすくなります。

ただし、人材戦略・人事戦略・戦略人事という3つの用語には、法令上や学術上で統一された定義があるわけではなく、企業や論者によって使われ方に幅があります。そこで本記事では、便宜的に次のように整理します。戦略人事という大きな方針のもとに、人材戦略(人材そのものの確保・育成・配置・評価に関する計画)と人事戦略(評価制度・報酬制度・労務管理など仕組み・運用の設計)が位置づけられる、という関係です。企業によっては人材戦略を人事戦略の一部として位置づけるなど、逆の整理をする場合もあり、以下の表はあくまで本記事での整理である点をご留意ください。この整理を社内で共有しておくと、会議や資料で用語が混在する事態を避けられます。特に、転職者が多い組織では以前の会社で使っていた言葉の定義を持ち込みやすいため、最初に用語の使い方を合わせておくだけでも、社内の認識ずれを減らすことができます。

用語 主な焦点 具体的な対象
人材戦略 人材そのものの計画 採用・育成・配置・評価の方針
人事戦略 人事の仕組み・運用の設計 評価制度・報酬制度・労務管理
戦略人事(本記事での整理) 経営と人事機能全体の連動 人材戦略・人事戦略を包含する実践概念として整理

人材戦略の目的と、後回しにした場合のリスク

人材戦略を後回しにした場合の課題を慎重に確認する担当者の線画イラスト

経営戦略と連動させる意義

人材戦略を策定する最大の目的は、事業目標を達成するために必要な人材要件を、経営戦略から逆算して明確にすることです。新規事業への参入や既存事業の拡大といった経営戦略が変われば、必要な人材像や人数も変わるため、人材戦略は一度作って終わりではなく、経営戦略の見直しに合わせて更新していく前提を持つ必要があります。

この連動が取れていない状態では、採用・育成・配置といった個々の施策が場当たり的になり、せっかくの投資が経営目標の達成に結びつきにくくなります。

後回しにした場合に起きる課題

人材戦略の策定を後回しにしたまま個別の施策だけを積み重ねていくと、いくつかの課題が深刻化しやすくなります。採用基準や職務内容の認識が不明確なまま中途採用を続けると、入社後の期待値のずれやミスマッチにつながりやすくなったり、各部署がそれぞれ独自の判断で人材配置を行うことで、全社最適とはいえない状態が続いたりするケースです。

従業員の側から見ても、会社がどのような人材を求め、どう育成していく方針なのかが見えないままでは、キャリアの見通しを持ちづらくなり、エンゲージメントに影響する可能性があります。こうした課題は一度表面化すると改善に時間がかかるため、早い段階で人材戦略の骨子を描いておくことが、結果的にコストを抑える選択になります。

特に複数の部署で同時に人材不足が発生すると、部署同士が限られた人材を取り合う形になり、全社的な優先順位づけがないまま場当たり的な配置転換が繰り返されるケースも見られます。こうした状態が続くと現場の疲弊が進み、次の施策にすら着手しづらくなるため、早期に全社最適の視点を持つことが欠かせません。

人材戦略を構成する4つの領域

採用・育成・配置・代謝という4つの領域の循環を話し合う担当者たちの線画イラスト

採用と育成

人材戦略を構成する領域の整理方法は一つに定まっているわけではなく、一般的・公式な唯一の分類があるわけでもありませんが、本記事では実務上の分かりやすさを重視し、「採用・育成・配置・代謝」という4つの領域として整理します。採用では、経営戦略から逆算した人材要件を明確にし、新卒・中途・副業人材など複数の確保手段を組み合わせることが求められます。中途採用だけに依存すると労働市場の変化に採用コストが左右されやすくなるため、社内異動や業務委託といった手段もあらかじめ組み合わせておくと、採用面のリスクを分散できます。

育成は、採用した人材に対して必要なスキル・能力をどう伸ばすかを計画するパートです。研修・OJTといった具体的な手法は多岐にわたりますが、重要なのは育成計画を評価の仕組みと連動させ、育成の成果が正しく評価につながる状態を作ることです。

配置と評価・代謝

配置は、育成した人材を適材適所に当てはめ、能力を発揮させる領域です。評価制度と連動していなければ、配置の納得感が得られにくくなります。代謝は、配置転換・昇進・異動・退職といった人材の流動性を健全に保つための施策を指す、本記事独自の実務整理です(一般的・公式な唯一の分類ではありません)。企業が退職を一方的に促す意味ではなく、役割や人材が固定化すると、新しい知識や視点を取り込みにくくなる可能性があるという観点から位置づけています。なお、配置転換や退職に関わる施策を検討する際は、就業規則・労働契約など労務上の確認を伴う場合があります。

4つの領域は独立したものではなく、循環する関係にあります。採用した人材を育成し、適切に配置し、評価を通じて次の採用・育成計画に反映する、というサイクルのどこかが欠けると、人材戦略全体の効果が発揮されにくくなります。

領域 主な目的 欠けた場合に起きやすいこと
採用 必要な人材像の確保 要件が不明確なまま採用し、入社後の期待値のずれやミスマッチにつながりやすくなる
育成 必要なスキル・能力の開発 育成の成果が評価に反映されにくく、本人が成長を実感しづらくなる可能性がある
配置 適材適所による能力発揮 納得感のない配置でエンゲージメントに影響しやすい
代謝(本記事独自の整理) 人材の健全な流動性・役割転換 役割や人材の固定化が進み、新しい知識・視点を取り込みにくくなる可能性がある

人材戦略の立案に役立つ代表的なフレームワーク

SWOT分析や人材ポートフォリオを使って現状を整理する担当者の線画イラスト

SWOT分析・TOWS分析

人材戦略の立案では、まず自社の現状を整理するための補助的なフレームワークが役立つことがあります。代表的なものがSWOT分析で、人材面の強み・弱みと、労働市場の変化などの機会・脅威を整理することで、着手すべき優先課題が見えやすくなります。

SWOT分析で整理した要素を、さらに「強みを機会にどう活かすか」「弱みを脅威にどう備えるか」という組み合わせで検討する手法がTOWS分析です。現状把握から具体的な施策へのつなぎとして活用すると、分析だけで終わらずに実行計画へ落とし込みやすくなります。

人材ポートフォリオという考え方

もう一つ有用なのが、社内の人材を「どのような能力・特性を持つ人材が、どれだけいるか」という観点で可視化する人材ポートフォリオの考え方です。分類に使う軸は事業戦略に応じて設定するもので、たとえば専門性の高さと組織への関与度合いなど、複数の軸で人材を分類すると、どの領域で人材が不足し、どの領域で過剰になっているかを把握しやすくなります。たとえば専門性は高いものの組織への関与度が低い人材が多く、知見の共有が進んでいない場合には、属人化のリスクが考えられます。そうした課題が見えてきた場合は、形式化・継承の仕組みづくりを優先課題に位置づける、といった具体的な打ち手につなげやすくなります。

フレームワークはあくまで現状を整理するための道具であり、使うこと自体が目的にならないよう注意が必要です。分析の結果を踏まえて「次に何を実行するか」まで検討しなければ、人材戦略の立案にはつながりません。現状把握が不十分なまま使っても、実効性のある施策には結びつきにくい点も踏まえておく必要があります。

人材戦略の立て方・策定ステップ

現状把握から実行・改善までの3つのステップを確認する担当者の線画イラスト

人材戦略は、以下の3つのステップで段階的に組み立てていくと、実行しやすい計画になります。

  • ステップ1:現状把握と課題抽出
  • ステップ2:施策の具体化と計画策定
  • ステップ3:実行・評価・改善のサイクル

ステップ1 現状把握と課題抽出

最初のステップは、社内の人材データ・情報を集め、経営課題と人材課題を結びつけて確認することです。従業員の年齢構成・スキル分布・離職傾向といった基礎データに加え、経営戦略の実現に必要な人材像とのギャップを特定します。

このステップは最初の一歩であるほど着手のハードルが高く感じられやすいため、「どの部署の、どのデータを、誰が集めるか」をチェックリスト形式で具体化しておくと進めやすくなります。

ステップ2 施策の具体化と計画策定

課題が整理できたら、優先順位をつけて施策を計画に落とし込みます。自社の既存制度でまかなえる部分と、外部リソースの活用を検討すべき部分を切り分け、それぞれの施策について期限と責任者を明確にすることが重要です。

計画は「誰が、いつまでに、何を行うか」まで具体化されていなければ、絵に描いた戦略で終わってしまいます。この粒度まで落とし込む作業こそが、ステップ2で最も時間をかけるべき部分です。

ステップ3 実行・評価・改善のサイクル

計画を現場に展開したあとは、あらかじめ決めたKPIで効果を評価し、改善につなげます。人材戦略は一度実行して終わりではなく、半期・四半期など自社の事業サイクルや施策の性質に応じて見直しの場を設けておくことで(施策によっては月次・年次・随時の見直しが適する場合もあります)、PDCAが単発で終わらない仕組みになります。

状況の変化に応じて施策を柔軟に見直す前提を持っておくことも大切です。効果が出ていない施策を漫然と継続するのではなく、早めに方法を変える判断ができる体制こそが、このサイクルを機能させる鍵になります。

人材戦略を成功させるためのポイント

専門家のアドバイスを受けながらKPIを検討する担当者の線画イラスト

経営層と現場の両方を巻き込む

人材戦略を机上の計画で終わらせないためには、経営層の合意形成とあわせて、現場の社員が納得感を持てる進め方を意識する必要があります。トップダウンで方針を決めるだけでなく、現場からの意見を反映するボトムアップの要素も組み合わせることで、人事部門だけでなく各部署が施策の実行を担う体制ができあがります。

KPI設定と見直し体制

人材戦略の効果を測るためには、あらかじめ具体的なKPIを設定しておくことが欠かせません。KPIの例としては、離職率・配置後の満足度・社内公募への応募率・育成施策の受講後スキル評価の変化などが挙げられます。これらの指標は単独で成果を判断できるものではないため、どの経営課題に結びつくのかという因果関係を仮説として明確にしたうえで設計することが望まれます。人的資本可視化指針が扱う人材育成・従業員エンゲージメントといった観点を参考にKPIを設計すると、社外への説明にも使える指標になります。

KPIは一度設定したら固定するのではなく、定期的な振り返りの場で見直すことが重要です。効果が出ていない指標に固執せず、経営戦略の変化に応じて測る対象自体を更新していく柔軟さが求められます。

人材戦略の設計や見直しを自社だけで進めるのが難しいと感じる場面では、外部の専門家に相談するという選択肢もあります。TechHouse.Worksでも、評価制度・組織設計・人事変革を支援するPA(ピープルアーキテクト)というサービス軸を提供しており、人材戦略の具体化に向けてお問い合わせいただくことも可能です。

新規事業・DX推進フェーズで問われる人材戦略の論点

既存の枠を越えて社外の視点を取り込もうとする担当者たちの線画イラスト

既存事業の運用型人材戦略との違い

ここまで見てきた人材戦略の考え方は、既存事業を運用していくうえでの人材確保・育成が中心でした。一方で、新規事業の立ち上げやDX(デジタルトランスフォーメーション)推進のフェーズでは、既存事業向けの採用基準や評価制度をそのまま当てはめても機能しにくいという論点が出てきます。

新規事業の立ち上げでは、既存の業務プロセスを前提としないイントラプレナー(社内起業家)的な人材や、デジタル化を自ら推進できる人材が求められる場合があります。これは、業務のデジタル化や顧客接点データの整備と、新規事業の仮説検証を並行して進めていく企業が増えている状況と関わっています。業務効率化・データ活用・新規事業の検証は必ずしも一方通行の順序で進むものではなく、企業の課題や事業モデルに応じて並行・反復しながら進める場合もあります。評価制度も、既存事業の短期的な成果指標だけでなく、新規事業特有の不確実性を踏まえた評価軸を別に用意する必要が出てきます。既存事業では即戦力となる経験者を重視する採用基準が機能しやすい一方、新規事業では前例のない課題に対応できる仮説検証力や周囲を巻き込む力などが重視される場合があり、採用・評価どちらの基準も切り替えて考える必要があります。

社内に閉じない人材の活用という選択肢

新規事業・DX推進フェーズの人材戦略では、社内の人材だけで必要な人材要件をすべて満たすことが難しい場合もあります。こうした場面で検討材料になるのが、出島組織(既存の意思決定プロセスから独立させた新規事業専用の組織)、他社・異業種との交流を通じて視野を広げる越境人材の活用、そして出向起業といった仕組みです。出向起業は、大企業などに所属する人材が所属企業を辞職せずに自ら起業し、設立したスタートアップへ出向等の形で関わりながら新規事業に取り組む制度で、他社の人材を外部から受け入れる越境人材の活用とは異なる仕組みです。実際の雇用関係・出向契約・指揮命令・知的財産の扱いなどは個別の制度設計・契約によって異なるため、検討する際は個別に確認が必要です。

これらは、社内の人材戦略を補完する選択肢の一つとして位置づけられます。重要なのは、社内育成と外部活用のどちらか一方に絞るのではなく、経営戦略から逆算した人材要件に対して、どの部分を社内で担い、どの部分を外部の力で補うかを計画の中に組み込んでおくことです。

業種別にみる人材戦略の実務論点

ベテラン人材が若手に知見を継承する様子を描く線画イラスト

技術継承と若手確保が課題になりやすい業種

人材戦略で重視すべき論点は、業種によって異なります。たとえばハウスメーカーや建設業系の企業では、現場の技術・知見を持つベテラン人材から若手への技術継承が進まないまま、採用難によって若手の確保自体が難しくなるという課題が重なりやすい傾向が指摘されることがあります。不動産業でも、営業力や地域知見とデータ活用をどう組み合わせるかが課題になる場合があります。

このような業種では、採用・育成の施策を単独で強化するだけでなく、ベテラン人材の知見を形式化して若手に引き継ぐ仕組みそのものを人材戦略の一部に組み込む必要があります。

中堅企業だからこそ取れる打ち手

なお、産業競争力強化法上の「中堅企業者」は、売上高ではなく従業員数(2,000人以下、中小企業者を除く)を基準に定義されており、本記事が目安とする売上規模50億円以上とは異なる基準です。本記事ではこの法令上の定義を用いず、あくまで便宜上の目安として売上規模50億円以上の企業を想定読者としています。このような規模の企業は、大企業と比べて組織の意思決定が速く、経営層と現場の距離が近いという強みを持ちやすいといわれますが、これは企業によって差があり、すべての中堅企業に一律に当てはまるものではありません。

一方で、人事部門の専任人材が限られている企業では、人材戦略の設計から実行までを全て内製で担うことが難しい場合もあります。優先度の高い課題から段階的に着手し、必要に応じて外部の専門家の力を借りながら進めるという進め方は、中堅企業にとっても現実的な選択肢の一つです。人事担当者が少人数の体制であっても、経営会議で人材課題を直接共有できる距離感があれば、優先課題の合意形成を進めやすくなる場合があります。この機動力をどう活かすかが、中堅企業が人材戦略を実行に移すうえでの分かれ道になります。

人材戦略を策定する前に確認したいチェックリスト

着手前の確認項目を一つずつ丁寧に確認する担当者の線画イラスト

人材戦略の策定に着手する前に、以下の項目を確認しておくと、その後の作業が進めやすくなります。

  • 経営戦略・事業目標が明文化され、社内で共有されているか
  • 従業員の年齢構成・スキル分布・離職傾向などの基礎データを集められる状態にあるか
  • 採用・育成・配置・評価のうち、どの領域に課題が集中しているかを把握しているか
  • 施策の優先順位づけや計画策定を、誰が主導して行うかが決まっているか
  • 効果を測定するためのKPIと、見直しの周期をあらかじめ検討しているか

人材戦略に関するよくある質問

Q1. 人材戦略と人事戦略の違いを一言でいうと?

人材戦略は「どんな人材を確保・育成・配置するか」という人材そのものの計画で、人事戦略は評価制度・報酬制度などの仕組み・運用の設計です。重なる部分はありますが、焦点の置き方が異なります。これらの用語に統一された法令上の定義はなく、本記事では便宜的にこのように整理しています。

Q2. 人材戦略の効果を測るKPIの具体例は?

離職率、配置後の満足度、社内公募への応募率、育成施策受講後のスキル評価の変化などが例として挙げられます。それぞれの指標がどの経営課題に結びつくのかを仮説として明確にし、人的資本可視化指針が扱う人材育成・エンゲージメントといった観点を参考にすると、社外への説明にも使いやすい指標になります。

Q3. 中堅企業でも人材戦略は必要ですか?

必要です。なお、産業競争力強化法上の「中堅企業者」は売上高ではなく従業員数によって定義されており、本記事が目安とする売上規模50億円以上とは異なる基準です。本記事ではこの法令上の定義を用いず、あくまで便宜上の目安として売上規模50億円以上を想定読者としています。経営層と現場の距離が近い企業では、人材戦略を経営戦略に連動させやすい強みを持ちやすいといわれます。人事の専任人材が限られる場合は、優先度の高い課題から段階的に着手するのが現実的です。

Q4. 人材戦略の策定にはどれくらいの期間がかかりますか?

策定期間に一律の標準はありません。対象範囲・データの整備状況・経営戦略の明確さによって大きく異なり、短期間の試行から数カ月単位の全社設計まで幅があるのが実務上の目安です。実行後は半期・四半期など、自社の事業サイクルや施策の性質に応じた周期で見直す前提を持つのが現実的です。まずは現状把握のステップにどれだけ時間がかかるかを見積もることが出発点になります。

Q5. 人材戦略と人的資本経営の関係は?

人的資本経営は、人材を「資本」として捉え、経営戦略と人材戦略を連動させて企業価値向上につなげる考え方です。人材戦略は、その人的資本経営を実践するための具体的な計画の一部にあたります。

Q6. 新規事業を進める場合、既存事業の人材戦略と何が違いますか?

既存事業向けの採用基準・評価制度をそのまま当てはめると機能しにくい点が異なります。新規事業では不確実性を踏まえた評価軸や、出島組織・越境人材・出向起業といった社内に閉じない人材活用の検討が論点になりやすくなります。

まとめ

人材戦略は、経営戦略を実現するために必要な人材を、採用・育成・配置・代謝という4つの領域(本記事における整理)で計画することです。人事戦略・戦略人事との違いを整理したうえで、現状把握から施策の計画策定、実行・評価・改善というステップを踏むことで、机上の計画ではなく実行可能な戦略に近づきます。

とはいえ、特に新規事業の立ち上げを伴う場面では、既存の採用基準や評価制度をそのまま当てはめるだけでは人材戦略が機能しないこともあります。TechHouse.Worksでは、出資(最大500万円)と継続的な伴走支援を組み合わせたスタートアップスタジオモデルの中で、評価制度・組織設計を支援するPA(ピープルアーキテクト)という軸や、個人・組織の越境学習を通じて新しい視点や仕組みを組織に取り込む「Beyond Borders」というサービスを通じて、社内に閉じない人材戦略の実行を支援しています。自社の人材戦略をどう経営戦略に連動させるか、何から着手すべきか迷う場合は、お気軽にご相談ください。なお、挑戦者に伴走する組織づくりの思想については、noteでも発信しています。