職務設計とは|職務内容・業務範囲・具体的な業務を設計する方法
組織設計・人材戦略
2026.10.28
「新しいプロジェクトを立ち上げるたびに、誰が何をどこまで担当するのかが曖昧になり、同じような調整に時間を取られている」「中途採用者に仕事を割り振ったものの、本人のモチベーションがなかなか上がらない」——人事担当者や管理職からは、こうした声がよく聞かれます。
業務の割り振りそのものに手応えのある型がなく、感覚的な配分に頼ってしまっている組織は少なくありません。こうした課題の背景には、個々の仕事内容や業務範囲を体系的に設計する視点が不足している、という事情があることが多くあります。仕事の中身をどう組み立てるかによって、担当者のやりがいや成果の出方は大きく変わってきます。
そこで本記事では、職務設計の定義から、その理論的な基盤であるハックマン=オルダムの職務特性モデル、実務での進め方、テレワーク環境での留意点までを、体系的に解説します。

沖岡 豊大
我々は誰もが挑戦の歩みを止めず、
失敗を糧に再チャレンジできる寛容な社会の実現を
目指して活動しています。
創業背景としては、エンジニア起業家の養成スクールで得た気づきがきっかけでした。自身のWhy meをプロダクトに落とし込み、投資家に対してピッチを行うのですが、卒業後も挑戦を”続けられる”人間がごく僅かだということを実感しました。志のある優秀な方でも、リスクを背負い、様々なハードシングスを乗り越えながら進み続けることは、実際には非常に困難です。そこで、起業家に同志として寄り添い、何度でも挑戦し続けられる環境を構築したいと思うようになり創業に至りました。
最終的にわたしもいち起業家として、TechHouse.Worksのサポートを得ながら、新たな事業を創るのが私の夢です。
職務設計とは何か

職務設計の定義と対象範囲
職務設計(job design)とは、従業員一人ひとりが担当する仕事の内容・業務範囲・進め方を、組織の目的に沿って体系的に組み立てることを指します。英語の「job design」という呼び方がそのまま定着しており、経営学や産業・組織心理学の分野で長く研究が重ねられてきた概念です。
単に「誰にどの作業を割り振るか」という配分の話にとどまらず、担当者がどのような技能を使い、どこまでの範囲の仕事に責任を持ち、どの程度自分で進め方を決められるか、という仕事の質そのものを設計する点が特徴です。対象範囲は、個々のタスクの組み合わせ方から、権限の範囲、評価の対象となる成果まで幅広く及びます。
職務設計がうまく機能すると、従業員のモチベーションや満足感、業績などに良い影響が及びうることが、後述する職務特性理論の研究の中で報告されてきました。ただし、こうした効果は職務特性や個人・組織の状況によって左右され、管理者の支援体制や評価・処遇制度などの条件次第で現れ方が変わるため、どの職場でも一律に業績向上や離職抑制につながると保証されているわけではありません。逆に、定型業務ばかりが積み重なり、裁量の余地がほとんどない仕事は、モチベーションを抑制する要因になりやすいとされています。
職務分析・職務記述書(ジョブディスクリプション)との関係
職務設計を具体的に進める際には、既存資料の確認や従業員・関係部署へのヒアリングと組み合わせて、「職務分析」という手続きを通じて、対象となる仕事の内容・難易度・必要なスキルを洗い出す進め方がよく用いられます。
職務分析などで整理した情報をもとに、事業戦略・組織設計・人事制度上の方針なども踏まえながら、仕事の目的・業務範囲・求められる成果・必要なスキルなどを文書化したものが、職務記述書(ジョブディスクリプション)です。職務記述書は、職務設計で決めた仕事の形を、採用・評価・配置といった人事の実務に落とし込むための橋渡し役を担います。具体的な作成手順は後述します。
役割定義・職務分掌・組織設計との違い
職務設計は、近接する複数の概念と混同されやすい用語です。ここで整理しておきます。
| 概念 | 主な焦点 |
| 職務設計 | 個々の仕事の内容・業務範囲・進め方の設計 |
| 役割定義 | 誰がどの役割・責任・権限を持つかの定義 |
| 職務分掌 | 部門・役職への業務の分担(分掌規程・分掌表) |
| 組織設計 | 組織全体の構造・部門編成の設計 |
役割定義は「誰が何に責任を持つか」という権限・責任の線引きに焦点を当てる概念で、職務設計の前提や隣接領域として扱われることが多くあります。ただし、役割定義・職務・職務分掌といった用語の範囲は、企業の人事制度によって使われ方が異なる場合があります。職務分掌は、個々の仕事というよりも部門・役職単位での業務の割り振りを規程や表の形で明文化する取り組みです。
組織全体の部門構成や指揮命令系統を設計する組織設計は、さらに上位のレイヤーに位置づけられます。本記事では、これらの違いを踏まえつつ、個々の仕事の内容・業務範囲を設計する「職務設計」そのものの手順と手法に軸足を置いて解説します。
職務設計の理論的基盤:ハックマン=オルダムの職務特性モデル

モデルが提唱された背景
職務設計を説明する代表的なモデルの一つが、1976年にリチャード・ハックマンとグレッグ・オルダムが発表した論文で提示された職務特性モデル(Job Characteristics Model)です。その後の関連研究の蓄積も含めて「職務特性理論」と総称されることもあります。
両氏は、Organizational Behavior and Human Performance誌に掲載された論文「Motivation through the design of work: Test of a theory」の中で、仕事そのものの特性が従業員の心理状態を経て、モチベーションや成果に影響を与える仕組みを提示しました。その後1980年には、理論を実務に適用するための手引きをまとめた著書「Work Redesign」(Hackman & Oldham, Addison-Wesley, 1980年)も発表されており、現在でも職務再設計(ジョブ・リデザイン)の基本文献として参照されています。
動機づけ理論における位置づけ
職務特性理論は、仕事の設計と従業員の心理状態を結び付けて動機づけを説明する理論です。仕事の特性という「内容」に着目する点から、一般的な動機づけ理論の分類では期待理論など「過程」に注目する理論と対比して「内容理論」に近いものとして説明される場合がありますが、この理論自体は仕事の特性から心理状態を経て結果に至るプロセスも扱っており、分類を断定的に主張すべきものではありません(この分類自体は研究者によって整理の仕方が異なる場合があります)。
この理論は、「仕事の特性」→「心理状態」→「結果(モチベーション・満足・業績)」という因果の流れを想定しており、次章以降で解説する5つの中核的職務特性と3つの心理状態が、その骨格を成しています。
5つの中核的職務特性

ハックマン=オルダムのモデルでは、仕事の動機づけの強さを左右する要素として、次の5つの中核的職務特性が挙げられています。
技能の多様性・タスクの完結性・タスクの重要性
技能の多様性(skill variety)とは、仕事を遂行するうえで必要とされる技能の種類がどれだけ幅広いかを示す特性です。単一の作業を繰り返すだけの仕事よりも、複数のスキルを使い分けられる仕事の方が、担当者にとって挑戦的でやりがいを感じやすいとされています。一方で、技能の種類を広げすぎると負担の増加や役割の曖昧化につながる場合もあるため、増やせば増やすほどよいというものではありません。
タスクの完結性(task identity)は、自分が担当する仕事が、全体のうちどこからどこまでの範囲として完結しているかを示します。一部の工程だけを切り出して担当するよりも、仕事の始めから終わりまで一貫して関わる方が、仕事の意義を感じやすくなるとされています。
タスクの重要性(task significance)は、その仕事が組織内外の他者にどれだけの影響を与えるかという観点です。自分の仕事が顧客や同僚の生活・仕事にどう結びついているかが見えると、意義の実感につながりやすくなります。
自律性・フィードバック
自律性(autonomy)は、仕事の進め方・日程・手順をどの程度自分で決める裁量があるかを示す特性です。進め方を自分で決められる仕事は、理論上、責任感の経験に結びつきやすいとされています。
フィードバック(feedback)は、自分の仕事の結果について、どの程度直接的な情報が得られるかを指します。成果が見えにくい仕事は改善の手がかりを得にくく、モチベーションの維持が難しくなる傾向があります。
これら5つの特性は、ハックマン=オルダムが開発した職務診断調査(Job Diagnostic Survey、JDS)という尺度を用いて、従業員が職務の特性をどのように知覚しているかという観点から把握することができます。業務量や権限範囲といった客観的な情報は、JDSとは別の資料で確認する必要があります。JDSによる診断の具体的な活用方法は、後述する「職務設計の進め方」で解説します。
3つの心理状態と動機づけへの経路

意義の経験・責任感の経験・結果の知識
ハックマン=オルダムのモデルでは、5つの職務特性が直接モチベーションに結びつくのではなく、3つの心理状態を経由して効果をもたらすと説明されています。
技能の多様性・タスクの完結性・タスクの重要性の3つは、モデル上、主に「意義の経験」(仕事に意味を感じる度合い)に関係するとされています。同様に、自律性は「責任感の経験」(仕事の成果に対して自分で責任を持っていると感じる度合い)に、フィードバックは「結果の知識」(自分の仕事がうまくいっているかどうかを把握できている度合い)に、それぞれ結びつくとされています。
モチベーション・業績・離職への影響
3つの心理状態が十分に満たされると、内発的なモチベーションの向上や仕事への満足感、職務遂行の面で良い影響が及ぶと報告されています。業績の向上や離職の抑制についても関連する研究はありますが、これらは評価・処遇制度や職場の支援体制など他の要因にも大きく左右されるため、職務特性の改善だけで実現するとは限りません。また、こうした効果の強さには個人差があり、成長への欲求が強い人ほど職務特性の改善による効果を受けやすいという仮説も示されていますが、個人差がどの程度効果を左右するかは研究によって幅があります。
なお、FriedとFerrisが1987年に実施したメタ分析では、職務特性モデル全体の妥当性が一定程度支持される一方、効果の強さは研究によって幅があることも指摘されており、理論を適用する際は「効果が自動的に保証されるものではない」という前提を持っておくことが重要です。
職務設計の主な手法と比較

職務特性モデルを土台に、実務で職務設計を進める際に使われる代表的な手法を整理します。
職務拡大・職務充実・ジョブローテーション
職務拡大(job enlargement)は、担当する業務の種類・範囲を水平方向に広げる手法です。技能の多様性やタスクの完結性を高める効果が期待できますが、業務量が単純に増えるだけで終わらないよう、範囲の広げ方には注意が必要です(詳しくは後述の「失敗しやすいパターン・リスク」で扱います)。
職務充実(job enrichment)は、計画・判断・評価といった、これまで上位の役職が担っていた要素を担当者自身の仕事に組み込み、自律性や責任の範囲を垂直方向に広げる手法です。
ジョブローテーションは、一定期間ごとに担当業務を変える仕組みで、技能の多様性を高めると同時に、組織全体の業務理解を深める効果も期待できます。
ジョブ・クラフティングとの違いと組み合わせ方
近年注目されている考え方として、ジョブ・クラフティングがあります。WrzesniewskiとDuttonが2001年に提示した概念で、従業員が自らの仕事について、タスクの範囲(何を・どれだけ行うか)、関係性(誰とどう関わるか)、仕事の捉え方(何のための仕事と意味づけるか)という3つの面を能動的に作り変えていく行動を指します。
職務設計が管理者主導で仕事の形を決めるのに対し、ジョブ・クラフティングは従業員自身がタスク・関係性・仕事の意味づけを自ら作り変えていく点が大きな違いです。両者は対立する概念ではなく、管理者が職務設計によって一定の裁量の余地を用意し、その範囲内で従業員がジョブ・クラフティングを行えるようにする、という組み合わせ方が有効になり得ます。ただし、顧客対応・安全管理・法令上の制約など自由に変更できない範囲もあるため、どこまで裁量を認めるかは業務内容に応じて見極める必要があります。
| 手法 | 主導者 | 主な狙い |
| 職務拡大 | 管理者 | 業務の種類・範囲を水平に広げる |
| 職務充実 | 管理者 | 判断・計画の要素を加え垂直に広げる |
| ジョブローテーション | 管理者 | 複数業務の経験・視野を広げる |
| ジョブ・クラフティング | 従業員自身 | 仕事の意味づけ・進め方を能動的に変える |
どの手法を選ぶかは、現状の職務特性のうちどこが弱いかによって変わります。技能の多様性やタスクの完結性が弱い場合は職務拡大、自律性や責任の範囲が狭い場合は職務充実、組織全体の視野や技能の幅を広げたい場合はジョブローテーションが、それぞれ有力な選択肢になります。複数の手法を組み合わせて使うことも少なくありません。
人事制度設計や組織づくりにおいて、こうした職務設計の考え方をどう自社に当てはめるかで悩む人事責任者の方は少なくありません。社内だけで進め方に迷った際は、専門家への相談もひとつの選択肢としてご活用ください。詳しくはお気軽にお問い合わせください。
職務分析と職務記述書(ジョブディスクリプション)の作り方

職務分析の進め方
職務分析は、観察・インタビュー・質問紙調査などの方法を組み合わせて、対象となる仕事の具体的な作業内容、必要なスキル、求められる成果を洗い出す作業です。
担当者本人へのヒアリングだけでなく、上司や関係部署からも情報を集めることで、認識のズレを減らすことができます。前述のJDSのような尺度を併用すれば、技能の多様性・自律性・フィードバックなど、職務特性の観点からも現状を把握しやすくなります。ただし、こうした尺度はあくまで診断を補助する手段であり、翻訳版の信頼性や回答者の主観的な偏りも踏まえたうえで、ヒアリングなど他の情報と組み合わせて活用することが望ましいとされています。
職務記述書に含める項目
職務分析などで整理した情報は、職務記述書として文書化します。含める項目は企業や制度によって異なりますが、一般的には、仕事の目的・主な業務内容・求められる成果・必要なスキルや経験・権限の範囲・報告先といった項目が含まれることが多く見られます。
職務記述書を作成する際は、業務範囲を細かく書きすぎて担当者の裁量を狭めてしまわないよう注意が必要です。前述の自律性の特性を踏まえ、進め方の細部まで固定するのではなく、裁量の余地を残した書き方を意識すると、職務特性モデルの狙いと整合しやすくなります。
なお、職務記述書はあくまで人事管理上の文書であり、労働基準法に基づく「労働条件の明示」とは別の位置づけです。2024年4月以降は、労働契約の締結・更新時などに就業場所・業務内容の変更の範囲も明示事項に加わっています。ただし、労働条件通知書等で明示する「業務の変更の範囲」は、職務記述書の業務一覧をそのまま転記するものではなく、労働契約上の変更可能な範囲を示すものであり、実際の記載内容は雇用形態や契約内容に応じて確認が必要です。職務内容や就業場所の変更が、労働契約で明示した変更の範囲を超える可能性がある場合は、職務設計の検討と並行して労務・法務の観点から確認しておくとよいでしょう。
職務設計の進め方:診断から効果検証まで

実務で職務設計・職務再設計を進める際の大まかな流れを示します。必要な期間は、対象となる職務の数、関係者との調整範囲、試行・効果検証の進め方によって大きく変わります。小規模な範囲でも、診断・合意形成・試行・検証のどこまで行うかによって必要期間は変わるため、実施前に対象範囲と検証方法を決め、社内の関係者とスケジュールを合意しておくことが重要です。
現状の職務を診断する
まず、JDSのような尺度やヒアリングを用いて、対象となる職務の現状を診断します。5つの中核的職務特性のうち、どの項目が特に弱いかを特定することが、この段階の目的です。
再設計を実施する
診断で特定した弱点をもとに、職務拡大・職務充実・ジョブローテーションなど、前述の手法を組み合わせて業務内容を見直します。すべての特性を一度に大きく変えようとすると現場が混乱しやすいため、段階的に進めることが望ましいとされています。
効果を検証し改善を続ける
再設計を実施した後は、従業員の反応や満足度、業績の変化を調査し、意図した効果が得られているかを確認します。管理者だけで判断するのではなく、従業員からの反応を確認しながら、必要に応じて修正を重ねていく姿勢が求められます。
テレワーク環境における職務設計の留意点

在宅勤務が職務特性に与える影響
テレワークや在宅勤務の広がりは、職務特性にも影響を与えることが研究で報告されています。GajendranとHarrisonが2007年に発表したメタ分析(46件の調査・12,883人の従業員が対象)では、テレワークの実施によって従業員の自律性の実感に小さいながら好ましい効果が見られ、同僚との人間関係の質について全般的な悪影響は確認されませんでした。一方で、同研究では、在宅勤務の頻度が週2.5日を超える高頻度のテレワークに限り、同僚との関係に悪影響が見られたことも報告されています。
情報共有の仕組みづくり
対面勤務であれば自然に生じていた上司・同僚からの声かけや観察の機会は、テレワークでは減りやすい傾向があります。そのため、業務によってはフィードバックの機会が不足しやすくなる可能性があります。
テレワーク環境で職務設計を見直す際は、裁量を広げるだけでなく、職務や勤務頻度に応じて、定期的な進捗共有や成果へのフィードバックの仕組みを合わせて設計することが重要です。
職務設計のメリットと失敗しやすいパターン・リスク

職務設計に取り組むメリット
職務設計を適切に行うことで、担当者のモチベーション向上や仕事への満足感の高まりが期待できます。業績の向上や離職の抑制についても関連する研究はありますが、これらは評価・処遇制度や職場の支援体制など他の要因にも左右されるため、職務設計だけで実現を保証できるものではありません。また、職務記述書を整備することで、採用時の要件定義や評価基準の明確化にもつながり、人事制度全体の一貫性を高める効果も見込めます。
失敗しやすいパターン・リスク
一方で、職務設計には注意すべき落とし穴もあります。一つは、前述のとおり、特性を一度に大きく変えすぎて現場が混乱してしまうケースです。
もう一つは、業務範囲を広げる職務拡大を行ったつもりが、単に作業量を増やしただけで終わり、技能の多様性や意義の実感が伴わないケースです。また、自律性を高める際に、フィードバックの仕組みを整えずに裁量だけを広げてしまうと、担当者が「何を目指して良いか分からない」状態に陥りやすくなる点にも注意が必要です。
業種・企業規模別の論点とチェックリスト

中堅企業・ハウスメーカー・不動産・建設業等での具体展開
中堅企業のうち、ハウスメーカー・不動産・建設業など、現場と本社の間で業務情報の差が生じやすい業種では、職務設計を検討する際に次のような論点が生じる場合があります。
現場担当者の仕事は、施工・接客・調整など多様な技能を要する一方、裁量の範囲が現場ごとの慣習に委ねられ、本社側から見えにくいケースが少なくありません。職務分析を行う際は、本社の人事担当者だけで進めるのではなく、現場責任者を交えてヒアリングを行うことが重要です。
企業規模の面では、職務が細分化され担当者数も多い企業ほど、職務記述書による標準化の効果が大きくなる一方、変更の影響範囲も広がるため、対象部署を絞った小規模な試行から始めることが現実的です。逆に、一人が複数の役割を兼ねることが多い規模の企業では、職務記述書を厳密に固定しすぎると、状況に応じた柔軟な業務分担がしにくくなる点にも注意が必要です。
部門・役職をまたぐ場合の注意点
部門・役職をまたいで職務設計を見直す場合、個々の仕事の範囲を変えることが、部門間の業務分担(職務分掌)や組織全体の構造(組織設計)にも影響を及ぼすことがあります。
個々の職務だけを先に変えてしまうと、部門間での役割の重複や抜け漏れが生じやすくなるため、関連する領域との整合性を確認しながら進めることが望ましいでしょう。また、職務の範囲を大きく変える見直しが雇用契約や就業規則上の労働条件の変更に該当する場合は、職務設計の検討と並行して労務・法務の観点からの確認も行っておくと安心です。職務設計に着手する前に、以下のようなポイントを確認しておくと、見直しの優先順位をつけやすくなります。
- 現状の職務について、5つの中核的職務特性のうちどれが特に弱いかを把握できているか
- 業務範囲を見直す対象が、部門間の役割分担(職務分掌)や組織全体の構造(組織設計)とどう関わるかを確認できているか
- 再設計後の反応を確認する仕組み(ヒアリング・サーベイ等)を用意できているか
- 一度に変える範囲を絞り、段階的に進める計画になっているか
よくある質問(FAQ)
Q1. 職務設計と職務分析の違いは何ですか?
職務分析は、職務設計を行うための前提として、仕事の内容・難易度・必要なスキルを調査・整理する手続きです。職務設計は、その分析結果を踏まえて、仕事の内容・業務範囲・進め方を具体的に組み立てる取り組みを指します。分析が「現状把握」、設計が「設計・見直し」という役割の違いがあります。
Q2. 職務記述書(ジョブディスクリプション)は必ず作る必要がありますか?
必須ではありませんが、採用・評価・配置といった人事の実務を一貫した基準で進めるうえで、職務記述書を整備しておく効果は大きいとされています。一方で、作成・更新には一定の工数がかかり、内容を細かく固定しすぎると状況変化への対応がしにくくなる面もあるため、定期的に内容を見直しながら運用することが望ましいでしょう。特に中途採用を行う企業や、職務等級制度を導入している企業では、職務記述書が判断基準として重要な役割を果たします。
Q3. 職務拡大と職務充実はどう違いますか?
職務拡大は、担当する業務の種類・範囲を水平方向に広げる手法です。これに対して職務充実は、計画・判断・評価といった要素を仕事に組み込み、自律性や責任の範囲を垂直方向に広げる手法です。どちらも技能の多様性や自律性を高める狙いがありますが、広げる方向性が異なります。
Q4. 職務設計はどのくらいの頻度で見直すべきですか?
明確な決まりはありませんが、組織の変化(新規事業の立ち上げ、テレワークの導入、評価制度の改定など)に合わせて見直すケースが多く見られます。定期的な従業員サーベイの結果、特定の職務特性が弱いという傾向が見えてきた場合も、見直しのタイミングとして検討する価値があります。
Q5. テレワーク環境でも職務特性モデルは当てはまりますか?
当てはまります。テレワーク環境では自律性の実感に好ましい効果が見られる一方、対面でのやり取りが減ることで、業務によってはフィードバックの機会が不足しやすくなる場合があります。対面勤務より一律に重要になるとは言い切れませんが、職務や勤務頻度に応じて職務特性モデルの観点から意識的に設計する価値はあるといえます。
Q6. 職務設計とジョブ・クラフティングはどちらを優先すべきですか?
どちらか一方を選ぶものではなく、組み合わせて考えることが実務的です。管理者が職務設計によって一定の裁量の余地を用意し、その範囲内で従業員がジョブ・クラフティングを行えるようにすることで、両者の狙いを両立させやすくなります。
Q7. 職務設計を進める担当者に、特別な資格や専門知識は必要ですか?
必須の資格はありません。ただし、職務特性モデルの基本的な考え方や、職務分析の進め方についての理解があると、診断から再設計までを一貫した基準で進めやすくなります。社内に知見が少ない場合は、外部の専門家に一部の工程を依頼しながら、進め方自体を社内に蓄積していくという進め方も選択肢になります。
まとめ
職務設計は、個々の仕事の内容・業務範囲・進め方を体系的に組み立てる取り組みであり、その理論的な基盤には、ハックマン=オルダムが1976年に提示した職務特性モデルがあります。5つの中核的職務特性と3つの心理状態のつながりを理解したうえで、職務分析・職務記述書の整備、診断から効果検証までの流れを段階的に進めることが、実務での職務設計の基本といえるでしょう。
一方で、職務設計だけで組織全体の課題が解決するわけではありません。個々の職務の見直しは、役割定義・職務分掌・組織設計といった隣接する領域と密接に関わっており、どこまでを自社で見直すか、どこから専門家の力を借りるかを切り分けて考えることが重要です。
TechHouse.Worksは、「挑戦者が躊躇せず、何度でも挑み続けられる居場所をつくる」というミッションのもと、スタートアップ向けのBoot Up!(シード期の新規事業支援)・Listing ON(スケール期の伴走支援)に加え、企業向けの組織変革支援であるBeyond Borders(越境人材を軸にした支援)を提供しています。人事制度や組織の見直しを、誰と一緒に進めるかを検討されている方は、お気軽にご相談ください。なお、挑戦者への伴走やピープルアーキテクトという考え方についてのより深い思想・原論は、noteでも発信しています。