DX推進とは?意味・進め方5ステップ・体制づくり・つまずきの対処法を中堅企業向けに解説
DX
2026.10.8
> 「経営会議でDX推進を任されたが、何から手をつければよいのか分からない」 > 「ツールは導入したのに、現場の仕事はほとんど変わっていない」 > 「DX推進部をつくるべきか、今の体制で進めるべきか判断できない」
DX推進を任された中堅企業の担当者には、こうした戸惑いが生じやすいものです。DXの必要性は理解していても、限られた人員で日々の業務と並行して進めなければならず、大企業向けの事例をそのまま真似するわけにもいきません。
言葉の意味があいまいなままツール導入や外部委託へ進むと、投資に見合う成果が出ないまま、現場の負担だけが増えるおそれがあります。公的な調査でも、DXの取組は広く定着してきた一方で、成果の出方には大きな差があることが示されています。
ただし、DX推進は「意味を揃える→現状を把握する→目的と体制を決める→小さく試す→評価して広げる」という順序で整理すれば、担当者自身が最初の一歩を決められる取組です。
そこで本記事では、DX推進の意味とIT化・デジタル化との違い、2025年の崖を過ぎた現在地、進め方の5ステップ、推進部・推進担当の体制づくり、人材の確保・育成、つまずきの診断方法、国の指針の使い方を、経済産業省やIPA(情報処理推進機構)などの公的資料を出典に整理します。読み終えたときに、自社の現状把握へ着手し、経営層へ提案するための材料がそろう構成です。
なお、本記事の「中堅企業」は法令上の定義ではなく、中小企業の規模を超えつつ、大企業ほどの専任体制は持たない企業を念頭に置いた実務上の呼び方です。

沖岡 豊大
我々は誰もが挑戦の歩みを止めず、
失敗を糧に再チャレンジできる寛容な社会の実現を
目指して活動しています。
創業背景としては、エンジニア起業家の養成スクールで得た気づきがきっかけでした。自身のWhy meをプロダクトに落とし込み、投資家に対してピッチを行うのですが、卒業後も挑戦を”続けられる”人間がごく僅かだということを実感しました。志のある優秀な方でも、リスクを背負い、様々なハードシングスを乗り越えながら進み続けることは、実際には非常に困難です。そこで、起業家に同志として寄り添い、何度でも挑戦し続けられる環境を構築したいと思うようになり創業に至りました。
最終的にわたしもいち起業家として、TechHouse.Worksのサポートを得ながら、新たな事業を創るのが私の夢です。
DX推進とは?意味とIT化・デジタル化との違い

最初に揃えたいのが言葉の意味です。社内で「DX=システム導入」と捉える人と「DX=事業の変革」と捉える人が混在すると、目的や予算の議論がかみ合わなくなります。公的な定義と、混同されやすい言葉との違いを整理します。
DX推進の意味と経済産業省の定義
DXは「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略称です。経済産業省は2018年12月に公表した「DX推進ガイドライン」で、DXを次のように定義しています(同じ定義はIPAのDX SQUAREでも紹介されています)。
> 企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
「DX推進」とは、この変革を一度きりの施策で終わらせず、組織として継続的に進める活動を指します。定義の中心にあるのはツールの導入ではなく、事業・業務・組織・企業文化を変えて競争上の優位性を築くことであり、デジタル技術はそのための手段です。なお、経済産業省は2022年9月のデジタルガバナンス・コード2.0への改訂でDX推進施策の体系をコードに一本化しており、このガイドラインの内容は現在、同コード(後述)に引き継がれています。ガイドラインとコードは同一の文書ではなく構成も異なりますが、現在のDX経営の指針として参照されるのはデジタルガバナンス・コード3.0です。
デジタイゼーション・デジタライゼーション・DXの違い
IT化やデジタル化とDXの違いは、「手段」と「変革」の違いとして整理できます。IPAの「DX動向2025」は、企業の取組をデジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションの3つに分類しており、段階の違いをつかむ手がかりになります。
| 段階 | IPAの分類での取組内容 | 住宅・不動産・建設業での例 |
| デジタイゼーション | アナログ・物理データのデジタル化 | 紙の図面や契約書類、現場日報のデータ化 |
| デジタライゼーション | 業務効率化による生産性の向上、既存製品・サービスの高付加価値化、新規製品・サービスの創出 | 見積作成の自動化、電子契約の導入、顧客への進捗共有のオンライン化 |
| デジタルトランスフォーメーション | 組織横断・全体の業務プロセスのデジタル化、顧客起点のビジネスモデルの変革、企業文化や組織マインドの変革 | 問い合わせから引き渡し後の点検まで顧客データをつなぎ、新しい提案やサービスを設計する |
出典:IPA「DX動向2025」(2025年6月)の取組内容の分類。右列の例は、TechHouse.Worksが想定した一般的な例です。
一般にIT化と呼ばれる取組は、既存の業務のやり方を前提にシステムで効率を高めるもので、表の上2段にあたります。DXは、その先で業務の全体像やビジネスモデル、企業文化まで変えていく点が異なります。IPAの調査は3つの取組全体を総称して「DX」と呼んでいますが、実務では、自社が今どの段階にいて、次にどこを目指すのかを見極めることが大切です。
DXの読み方・略語・言い換え表現
読み方は「ディーエックス」です。Digital Transformationの頭文字ならDTになりそうですが、一般にはDXと略されます。「Trans」を「X」と略記する慣習に由来するという説明がよく知られていますが、あくまで一般に流通している説明であり、公的な資料で語源が定められているわけではありません。
言い換えとしては、「デジタル変革」や「デジタル技術による事業変革」が近い表現です。「DX化」という言い方も広く使われますが、DXそのものに「変革」の意味が含まれるため、社内資料では「DXの推進」「DXの実現」と表記すると意図が伝わりやすくなります。
自社の取組がどの段階にあるのか、どこから着手すべきかの見極めが難しい場合は、外部の視点を借りるのも一案です。TechHouse.Worksでは、デジタル化から顧客接点のデータ基盤づくり、新規事業の立ち上げまでを順序立てて進めるDX領域の伴走支援を行っています。整理の段階から、専門家に相談することも可能です。
DX推進が求められる背景と、2025年の崖を過ぎた現在地

背景には、人口構造と顧客行動の変化、そして既存システムの課題があります。総務省統計局の人口推計(2024年10月1日現在)では、15〜64歳の生産年齢人口は約7,373万人で、前年より約22万人減少しました。少子高齢化で働き手が減り続ける中では、業務の進め方そのものを見直さなければ成果を維持しにくくなります。あわせて、顧客が情報収集から購買までオンラインで行うのが当たり前になり、顧客接点(顧客と企業が接する場面)のデジタル対応が競争力を左右するようになりました。
2025年の崖が示した既存システムの課題
経済産業省が2018年9月に公表したDXレポートは、既存システムが事業部門ごとに構築され、過剰なカスタマイズで複雑化・ブラックボックス化している問題を指摘しました。こうした老朽化・複雑化した既存システムを「レガシーシステム」と呼びます。
同レポートは、2018年時点の試算として、この課題を克服できない場合、2025年以降に最大で年間12兆円(レポート公表時点の約3倍)の経済損失が生じる可能性があると示し、これを「2025年の崖」と呼びました。この金額は、対策をとらなかった場合のシナリオにもとづく試算であり、実際に生じた損失額を示す数値ではありません。
背景には、老朽化したシステムを保守できる人材が減っていく問題もあります。論点は「2025年という年」ではなく、既存システムと人材の構造的な課題にあります。
崖を過ぎた現在地:取組は広がったが、成果に偏りがある
2025年を過ぎた今、確認したいのは年号ではなく、企業の取組の実態です。「2025年の崖」は、年号を期限とする予言ではなく、課題を放置した場合の警鐘として示されたものです。年が変わったからといって、既存システムと人材の課題が自動的に解消するわけではありません。
IPAのDX動向2025(2025年6月公表)は、2025年2〜3月に日本企業1,535社、米国企業509社、ドイツ企業537社から回答を得た調査です。調査に回答した企業のうち、DXに取り組んでいる日本企業は77.8%で、米国企業の76.8%と同水準、ドイツ企業の68.1%を上回りました(「DXに取り組んでいる」とする3種類の回答の合計)。
規模による差もあります。回答企業のうち、従業員1,001人以上の企業では96.1%が取り組む一方、100人以下の企業では46.8%でした。ただし、回答企業には金融・保険業が多くサービス業が少ない偏りがあり、IPAも、日本企業全体の実際の取組割合は今回の結果より低くなることが考えられると注記しています。
課題は成果の出方です。IPAの調査分析ディスカッション・ペーパー(2025年)によると、「コスト削減」を成果に挙げた日本企業は71.1%と米独より高い一方、「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」や「新製品・サービスの創出」は、7割前後の日本企業が取り組みながら、成果が出ている企業の割合は15.6%、18.8%にとどまります。効率化と成長の両方に取り組む企業のうち、両方で成果を上げた割合は、日本が26.8%、米国が80.9%、ドイツが77.6%でした。
さらに、DXを推進する人材が不足していると答えた日本企業は85.1%で、IPAは米独企業と比べて日本企業の人材不足が顕著であると指摘しています。
なお、IPAは2026年7月に、国内企業を対象とした最新のDX動向2026を公表しています。2026年4月17日〜6月12日に実施し、1,799社から回答を得た調査で、何らかの形でDXに取り組んでいる企業の割合は75.7%(IPAは「8割近く」と表現)でした。そのうち、DXの取組で設定した目的に対して「成果が出ている」と答えた企業は60.8%で、いずれも過去の調査と同水準です。この割合は、目的に対する成果の有無を尋ねた設問への回答結果であり、成果の大きさや事業への貢献度を測ったものではありません。DXに取り組む企業のうち、DXを推進する人材が「やや不足している」「大幅に不足している」と答えた企業の合計は85.5%で、ほぼ同じ水準が続いています。AI導入による効果を見ると、AIを導入(試験利用を含む)し、何らかの効果があったと答えた企業のうち、「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%と最も高い一方、「売上や利益が向上した」は3.9%にとどまり、成果が業務効率化に偏る構図は変わっていません。日米独の国際比較は2025年版の結果を用いています。
中堅企業にとっての論点は「取り組むかどうか」から、「効率化にとどまらず、成長につながる成果を出せる進め方・体制・人材をどう整えるか」へ移っています。
出典:IPA「DX動向2025」(2025年6月)、IPA調査分析ディスカッション・ペーパー2025-01「DX動向2025 – 成長のためのDXに求められる取組」、IPA「DX動向2026」(2026年7月)
DX推進に取り組むメリット

メリットは、「効率化」「売上・顧客」「組織・人材」の3つの軸で整理すると、自社が何を狙うのかを決めやすくなります。どの軸を優先するかで、後述するステップ2の目的とKPI(重要業績評価指標)が変わるため、先に全体像を押さえておきましょう。
| 軸 | 主なメリット | 成果を測る指標の例 |
| 効率化 | 業務の自動化、作業の削減、可視化による改善、コスト削減 | 作業時間、処理件数、コスト |
| 売上・顧客 | データ分析に基づく提案や新サービス、顧客対応の品質向上 | 成約率、リピート率、顧客満足度 |
| 組織・人材 | 場所や時間に縛られない働き方、データに基づく意思決定 | 意思決定までの日数、従業員の定着率 |
効率化は成果が数字に表れやすく、最初の一歩として取り組みやすい軸です。前述のとおりコスト削減を成果に挙げる日本企業が多い背景には、効率化の成果が作業時間やコストなどで測定しやすいことも、要因の一つとして考えられます。一方、売上・顧客の軸は成果が出ている企業の割合がまだ低く、データを活用した提案力や新サービスの進め方によって、成果に差が出やすい領域と考えられます。
組織・人材の軸は、単独の成果というより他の2軸を支える土台です。データに基づいて判断する習慣が根づくと、効率化で生まれた余力や蓄積したデータを、成長のための投資に振り向けやすくなります。
DX推進の進め方5ステップ

進め方は、①現状把握、②目的・戦略の設定、③体制構築、④小規模な実行(PoC)、⑤評価・改善の5ステップで整理すると分かりやすくなります。これは公的機関が定めた標準手順ではなく、実務でよく用いられる整理の一例です。各ステップで「何を決め、何を成果物として残すか」を明確にしておくと、担当者の交代時や経営層への報告時にも進捗を説明しやすくなります。
なお、次の表に示す期間は、TechHouse.Worksが計画づくりの例として整理した幅であり、公的な標準値や統計にもとづく数値ではありません。企業規模、対象範囲、体制によって大きく変わるため、自社の状況に合わせて調整してください。
| ステップ | 決めること・成果物 | 主な担当 | 計画上の期間例 |
| 1. 現状把握 | 業務フロー図、システム一覧(保守期限つき)、データの所在一覧 | 推進担当、現場部門、IT部門 | 1〜2か月 |
| 2. 目的・戦略 | 目的、優先領域、KPI(1〜2個)、投資枠 | 経営層、推進責任者 | 1〜2か月 |
| 3. 体制構築 | 推進責任者、役割分担、意思決定の会議体 | 経営層、人事部門 | 1〜2か月 |
| 4. 小規模な実行 | 検証対象の業務、成功・撤退の判断基準、検証結果 | 推進担当、対象部門 | 3〜6か月 |
| 5. 評価・改善 | KPIの実績、振り返り、次の展開の判断 | 経営層、推進担当 | 継続的 |
ステップ1:現状把握(業務・システム・データの棚卸し)
業務・システム・データの3点を棚卸しします。業務は主要な10前後を選び、担当者、工数、紙やメールに依存している箇所を書き出します。システムは、導入時期、保守期限、カスタマイズの程度、他システムとの連携(API連携=システム同士がデータをやり取りする仕組み)の有無を一覧にします。
データは、顧客情報や契約情報がどの部署のどのファイルにあるかを把握します。完成度を求めすぎず、まず全体を粗く可視化することが大切です。自社の到達度を客観的に確認したい場合は、後述する「DX推進指標」による自己診断も使えます。
ステップ2:目的と戦略を決める
目的は「売上を増やす」「コストを下げる」といった抽象表現にとどめず、経営課題から逆算します。たとえば「見積回答までの日数を短縮し、商談の取りこぼしを減らす」のように、業務の変化と経営成果がつながる形にします。
KPIは1〜2個に絞り、現在の値と目標の値を並べます。現在の姿と目指す姿との差(As is-To beギャップ)を数値で捉えておくと、後の評価が具体的になります。投資の上限と、いつ・誰が判断するかもこの段階で決めておきます。
ステップ3:推進体制をつくる
最低限そろえたいのは、経営層のスポンサー(取組を後押しし、予算と優先順位に責任を持つ役員)、全体の進行と部門間の調整を担う推進責任者、現場のキーパーソンの3者です。兼任だけで始めると日常業務に押されて停滞しやすいため、推進責任者は業務時間の相当部分を割ける形にするのが現実的です。体制のパターンは、後述の章で詳しく整理します。
ステップ4:小さく試す(PoC)
PoC(Proof of Concept:概念実証)とは、本格導入の前に、小さな範囲で効果や運用上の課題を検証する取組です。対象は1つの業務、1つの拠点、1つの商品などに絞り、期間を区切ります。
始める前に、成功の基準と撤退の基準を決めておくことが欠かせません。基準がないと、効果が曖昧なまま継続してしまいます。クラウドやSaaS(インターネット経由で利用できるソフトウェア)を使えば、大きな初期投資を避けて始められる場合もあります。
顧客データや契約情報を扱う検証では、始める前に、扱うデータの範囲、アクセス権限、委託先の管理、個人情報の利用目的、データの保存場所を確認しておきます。検証だからといって、管理の手を緩めないことが大切です。
なお、新規事業の検証では、PoCとは別にMVP(Minimum Viable Product:顧客に提供できる最小限の製品・サービス)を使う場合があります。PoCが技術や業務上の実現可能性を確かめる取組であるのに対し、MVPは実際に顧客に使ってもらい、需要があるかを確かめる点に主眼があります。
ステップ5:評価し、改善しながら広げる
PoCの結果とKPIの実績をもとに、展開するか、修正して再検証するか、中止するかを判断します。うまくいった要因と、いかなかった要因の両方を記録しておくと、次の取組に活かせます。展開後もKPIを定期的に確認し、経営層へ報告する場を設けることで、環境の変化に合わせた見直しを続けられます。
中堅企業が押さえたいDXの順序:デジタル化→顧客接点改革→新規事業

TechHouse.Worksでは、中堅企業のDXを「デジタル化→顧客接点のデータ基盤づくり→新規事業」の順序で捉えています。これはTechHouse.Worksとしての整理であり、国が定めた標準手順ではありません。前の段階の土台がないまま次へ進むと、データが集まらない、現場が使わないといった問題が起きやすいためです。すべての企業が新規事業まで進む必要はなく、自社の目的に応じて、どの段階まで進むかを決める考え方として参考にしてください。
第1段階:デジタル化で足元の業務とデータを整える
紙、表計算ソフト、個人のメールに散らばる情報を、共有できる形で記録する段階です。ここで重要なのは、ツールの選定よりも、データの入力ルールを揃えることです。部署ごとに顧客名や物件名の表記が違うと、後でデータをつなげられないため、表記や顧客IDのルールを先に決めておきます。
第2段階:顧客接点のデータ基盤をつくる
住宅・不動産・建設業では、資料請求、来場、商談、契約、着工、引き渡し、定期点検、リフォームと、顧客との接点が長期にわたります。段階ごとに担当部署が変わるため、顧客情報が分断されやすいのが特徴です。
この分断を解消する手段の一つが、CRM(顧客管理システム)やCDP(複数の情報源の顧客データを一元化する基盤)といったデータ基盤です。ただし、ツールを導入するだけで分断が解消するわけではありません。データの定義や入力ルール、運用の責任者、閲覧・編集の権限設計もあわせて決めておく必要があります。CRMについてはCRMの解説記事も参考になります。顧客の履歴を1つにつなぐと、接点ごとの対応の質が上がり、次の提案に適した時期も見極めやすくなります。
第3段階:データを起点に新規事業へつなげる
蓄積した顧客データと業務ノウハウから、新しいサービスを構想する段階です。たとえば、引き渡し後の保守や改修を定期サービスとして設計する、といった発想が考えられます。新規事業の考え方は、新規事業の基本を整理した記事で解説しています。
既存事業と意思決定のスピードや評価の基準が異なる場合は、出島組織(本体の制度や慣行から切り離し、意思決定を速められるようにした別組織)を検討する企業もあります。
DX推進部・推進担当の立ち上げ方と仕事内容

推進体制は、目的と社内の状況によって適した形が変わります。実務で整理されることの多い3つの組織パターン(公的な標準分類ではありません)と、推進担当の仕事内容・年収・資格の考え方を整理します。
DX推進組織の3パターンと選び方
| パターン | 強み | 注意点 | 向く状況 |
| 経営直下(経営企画、CDOなど) | 全社横断の権限を持ち、部門間の調整と投資判断が速い | 現場との距離が開きやすい | 事業変革が目的で、全社の優先順位を動かす必要がある |
| IT部門内 | 技術やセキュリティの知見を活かせる | 業務改革の視点が弱まりやすい | 基盤整備やシステム刷新が中心 |
| 兼任・部門横断プロジェクト | 現場の理解を得やすく、始めやすい | 日常業務に押されて停滞しやすい | 立ち上げ初期や試行段階 |
CDOとは、最高デジタル責任者(Chief Digital Officer)の略で、デジタル戦略を統括する役職です。選ぶ際の判断軸は、「目的が事業変革か基盤整備か」「決裁の権限を誰が持つか」「専任に割ける人員がどれだけあるか」の3つです。
中堅企業では、まず兼任のプロジェクトで小さく始め、成果が見えた段階で専任化し、経営直下へ移す段階的な立ち上げも現実的です。専任化を検討する目安としては、案件が複数の部門にまたがるようになった、定例の会議体が動き始めた、PoCが同時に複数走り始めた、といった状況が挙げられます。これは実務上の判断材料であり、公的な基準ではありません。推進部門は課題整理とPoCの運営を担い、現場部門が業務改善の当事者になる分担が基本です。
DX推進担当の仕事内容・年収・資格の目安
仕事は、課題の収集と優先順位づけ、社内外との調整、PoCの運営、KPIの管理、社内への周知と教育が中心です。技術への詳しさ以上に、経営層と現場の間で目的をすり合わせる役割が重くなります。
年収は、「DX推進担当」を職種として統一した公的な統計区分が見当たらず、企業の等級制度や役割によって大きく異なります。民間の求人集計は集計条件が異なり幅もあるため、本記事では特定の金額を示しません。
相場を確認するなら、厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)や賃金構造基本統計調査(令和7年調査)で、情報処理分野の近い職種の賃金を確認する方法があります。ただし、これらは近い職種の賃金を確認するための資料であり、DX推進担当そのものの相場を直接示す統計ではありません。
資格は、DX推進担当に必須とされるものはありません。学習の指針としては、全てのビジネスパーソン向けの「DXリテラシー標準」や、IPAが実施するITパスポート試験・基本情報技術者試験などがあります。資格の有無よりも、業務の理解と関係者を動かす調整力のほうが、実務では問われます。
推進部の立ち上げ段階から、社内の合意形成や進め方の設計で外部の知見を借りたい場合は、お問い合わせすることも選択肢になります。TechHouse.WorksのDX領域は、事業責任者やCXOの方を主な対象に、進め方の整理から伴走する支援です。
DX推進人材に求められる役割・スキルと、確保・育成の方法

経済産業省・IPAが示すDX推進人材の6類型
経済産業省とIPAが公表している「デジタルスキル標準」(2026年4月にver.2.0を公開)のうち、DX推進スキル標準は、DXの推進に必要な役割を6つの類型に整理しています。ver.2.0では、データの整備と利活用を担う「データマネジメント」の類型が新設され、データスチュワード、データエンジニア、データアーキテクトの3つのロールが定められました。
| 類型 | 役割の要点 |
| ビジネスアーキテクト | 変革の目的を定義し、ビジネスモデルと業務プロセスを設計する |
| デザイナー | 顧客視点を含めて、製品・サービスの方針や開発の進め方を策定する |
| データサイエンティスト | データ解析やAIシステムに関する仕組みの設計・実装・運用を担う |
| データマネジメント | データの安全性・信頼性を確保し、継続的に流通する仕組みを設計・運用して、組織全体でのデータ利活用と価値創出を促す |
| ソフトウェアエンジニア | システムやソフトウェアの設計・実装・運用を担う |
| サイバーセキュリティ | デジタル環境のセキュリティリスクを抑える対策を担う |
中堅企業が6類型のすべてを社内でそろえるのは現実的ではありません。本記事では、まず変革の目的を定義し、部門をまたいで関係者を動かす中核人材を明確にして、他の類型は不足度合いに応じて補う順序を推奨します。6類型のうち、この中核の役割に近いのが「ビジネスアーキテクト」です。なお、この優先順位は本記事の整理であり、標準が定めた順序ではありません。全社員が身につけるべき基礎としては、同じ標準に「DXリテラシー標準」も定められています。
採用・育成・外部活用の使い分け
人材の確保方法は、採用、育成、外部活用の3つに大別できます。IPAの「DX動向2025」の分析では、日本企業は社内人材の育成や既存人材の活用に積極的である一方、特定の技術を持つ企業や個人との契約を行う割合は米国企業のほうが高いという違いが示されています。IPAは、日米の労働市場や雇用形態の違いが影響していると考えられると述べています。
| 手段 | 向くケース | 留意点 |
| 採用 | 中核となる推進責任者や専門職を長期で確保したい | 採用に時間がかかり、報酬水準の設計も必要 |
| 育成(リスキリング) | 業務を知る社員に、デジタルの知識を加えたい | 成果が出るまでに時間がかかる。学ぶ時間の確保が必要 |
| 外部活用 | 特定の類型が不足し、早く立ち上げたい | 社内にノウハウが残る形にしないと、依存が続く |
リスキリングとは、新しい職務に必要な知識や技能を学び直すことです。
外部活用の選択肢には、ベンダー(システムやツールの提供事業者)やコンサルタントに加え、越境人材(大企業などで経験を積んだ人材が、出向や兼業などの形で他社の事業に参画する人材)があります。越境人材は、越境人材を解説した記事で詳しく扱っています。
現実的な組み合わせは、育成で全社の基礎を底上げし、不足する類型を外部で補い、中核ポストだけを採用する形です。外部に任せる場合も、目的と判断は自社が持ち、外部には実行を任せる分担にしておくと、ノウハウが社内に残ります。
DX推進が止まる症状と原因・対策(自社診断チェックリスト)

課題は「人材不足」「予算不足」と一括りにされがちですが、実際には症状によって原因が異なり、打ち手も変わります。症状から原因をたどる形で整理すると、手を打つ順序を決めやすくなります。
症状から原因を探る
| 症状 | 考えられる原因 | 対策の方向性 |
| ツールを入れたが現場が使わない | 現場の課題ではなく、導入ありきで選定した | 導入前に現場へヒアリングし、利用場面を絞って試行する |
| PoCは成功したが全社展開が進まない | 展開時の責任者・予算・運用ルールが未決 | ステップ2で、展開の判断基準と予算枠を決めておく |
| 推進担当が社内で孤立している | 経営層の関与が弱く、権限が不明確 | 経営層のスポンサーを任命し、定例の報告の場を設ける |
| 経営層と現場で目的がずれる | 目的が言語化されていない | 目的とKPIを1枚の文書にまとめ、共有する |
| 既存システムが足かせで進まない | 部門ごとの個別最適や、過剰なカスタマイズ | システム一覧を作り、刷新・連携・現状維持に分けて優先順位をつける |
| 効果を数字で説明できず、予算が付かない | 効果の指標が未設定で、開始前の数値もない | 開始前の数値を取り、小さなPoCで効果を測る |
技術以前に、目的・権限・指標が定まっていないことが背景にある場合があります。人材や予算の問題として扱う前に、この3点を確認してみてください。
自社診断チェックリスト
次の項目のうち、当てはまらないものは、次に着手する課題の候補です。
- DXの目的を、経営層と現場が同じ言葉で説明できる
- 目的に対応するKPIが1〜2個に絞られ、現在の値が測定されている
- 主要業務の一覧と、利用中のシステムの保守期限が把握できている
- 顧客情報がどの部署のどのツールにあるかを把握できている
- 経営層の中に、DXのスポンサーが決まっている
- 推進責任者の役割と権限が、文書で決まっている
- 現場の担当者が、PoCの企画段階から参加している
- PoCの成功基準と撤退基準を、事前に決めている
- PoCの前に、扱うデータの範囲、アクセス権限、委託先の管理、個人情報の利用目的を確認している
- 導入後の振り返りの場が、定期的に設定されている
DX推進の成功パターン:業種別に見る一般化した進め方

個別企業の公開事例は、規模や事業構造、当時の環境が異なり、そのまま自社に当てはめにくいことがあります。以下は特定の企業や案件ではなく、典型的な進め方を一般化したパターンとして整理したもので、実在の事例を示すものではありません。
成果を上げる企業に見られる傾向と、実務で押さえたいポイント
IPAの調査分析ディスカッション・ペーパーでは、成長につながるDXで成果を上げている企業ほど、経営幹部のデジタル分野の知見、外部組織との連携、業務プロセスの全社最適化といった取組を進めている傾向が示されました。ただし、これは取組の実施割合と成果の相関を示すもので、IPA自身が、取組と成果の因果を直接・明示的に示すものではないと述べています。
この傾向を踏まえ、実務では次の4点を押さえたいところです。経営層が目的に責任を持つこと、目的とKPIを明確にすること、小さく始めて広げること、現場を当事者として巻き込むことです。これらは、IPAの分析を踏まえた本記事なりの整理であり、成果との因果を示すものではありません。
業種別の一般化パターン
| 業種 | 典型的な課題 | 進め方のパターン | 想定される変化 |
| 住宅・不動産 | 営業・設計・施工・アフターで顧客情報が分断している | 顧客接点のデータをCRMに集約し、資料請求から引き渡し後の点検までを追跡する | 対応の抜け漏れの減少、リフォームなどの提案時期の把握 |
| 建設 | 現場の紙資料・写真・日報を、事務所に戻ってから処理している | 現場の情報をクラウドで共有し、進捗と原価を同じ画面で確認する | 事務作業の削減、工程や原価のずれの早期発見 |
| 製造・小売 | 需要の見通しと在庫、店舗とECの顧客データがつながっていない | 受注・在庫・会員のデータを連携し、まず1つの製品群や店舗で試す | 過剰在庫や欠品の抑制、顧客ごとの提案 |
「想定される変化」は、進め方から見込まれる方向性であり、効果を保証するものではありません。自社へ置き換える際は、まず「情報が分断されている場所」を1つ選び、そこにデータをつなぐ小さな検証から始めるとよいでしょう。
国の指針・支援策を自社のDX推進に活かす方法

国は、DXに取り組む企業向けに、経営の指針、自己診断の指標、支援のガイダンスを公開しています。社内提案の根拠や、進捗を確認する物差しとして使えます。
デジタルガバナンス・コード3.0とDX認定制度
経済産業省のデジタルガバナンス・コードは、2020年11月に策定され、2024年9月19日に「3.0」へ改訂されました。DX経営に求められる3つの視点と5つの柱で構成されています。
3つの視点は、「経営ビジョンとDX戦略の連動」「As is-To beギャップの定量把握・見直し」「企業文化への定着」です。5つの柱は、「経営ビジョン・ビジネスモデルの策定」「DX戦略の策定」「DX戦略の推進」「成果指標の設定・DX戦略の見直し」「ステークホルダーとの対話」を指します。
DX認定制度は、情報処理の促進に関する法律にもとづき、このコードに対応し、DX推進の準備が整っていると認められた事業者を国が認定する制度で、要件を満たすと「DX認定事業者」となります。認定は、DXを推進する準備が整っていることを示すものであり、DXの成果や事業の成功を保証するものではありません。認定基準や申請要件は、最新の制度案内で確認してください。社内提案の章立てに5つの柱を使うと、経営層が必要とする論点を整理しやすくなります。中堅・中小企業向けには実践の手引きも公開されています。
DX推進指標・DX支援ガイダンスの使い方
DX推進指標は、経済産業省が策定した自己診断のための指標で、IPAが自己診断結果の提出受付や分析、ガイダンスの公開を担っています。経済産業省は2026年2月に指標を改訂し、2026年4月からは、デジタルガバナンス・コード3.0にもとづく設問構成での自己診断となっています。経営層、事業部門、IT部門など複数の立場で答え、回答の差を議論の出発点にすると、認識のずれが見え、ステップ2の目的設定を進めやすくなります。
経済産業省が2024年3月に公表したDX支援ガイダンスは、副題の「デジタル化から始める中堅・中小企業等の伴走支援アプローチ」のとおり、デジタル化から段階的に進める考え方を整理した資料です。補助金などの支援策は、対象や要件が制度・年度ごとに異なるため、所管機関の最新の公募要領で確認してください。公募期間、申請できる主体、対象経費、事前着手の可否なども、あわせて確認しておくと安心です。なお、DX認定の取得は補助金の交付を保証するものではなく、認定の扱いも制度ごとに異なります。
DX推進に関するよくある質問
Q1. DX推進を始めるとき、最初の2週間で何をすればよいですか?
次の3つに絞るのが現実的です。経営層のスポンサーを1名決めて目的の仮説を確認すること、主要な業務を10前後書き出して紙・メール・表計算に依存する箇所に印をつけること、利用中のシステムの保守期限を一覧にすることです。
Q2. DX推進にかかる期間や費用の目安はありますか?
対象範囲によって大きく異なるため、一律の目安は示せません。現状把握からPoCまでを短期、全社展開を中長期と分けて計画するのが一般的です。費用は検証段階と展開段階に分けて承認を得ると、PoCの結果を見て次の投資を判断でき、経営層の合意も得やすくなります。
Q3. 中堅企業のDXは、大企業や小規模企業と何が違いますか?
中堅企業は拠点や部門が複数あり、全体最適の調整が必要になる一方で、専任に割ける人員は限られます。大企業の手法をそのまま使うと重くなりやすいため、対象領域を1〜2つに絞り、推進責任者を明確にしたうえで、部門をまたぐデータの入力ルールから整えるのが現実的です。
Q4. DX推進は一度やれば終わりですか?
終わりはありません。市場や技術、顧客の行動は変化し続けるため、KPIと戦略を定期的に見直す必要があります。デジタルガバナンス・コードでも、「成果指標の設定・DX戦略の見直し」が5つの柱の1つに位置づけられています。
Q5. ベンダーや外部に任せきりにしてもよいですか?
実行の一部は任せられますが、目的、優先順位、データの扱い、最終判断は自社が持つ必要があります。任せきりにすると、運用の引き継ぎや内製化が難しくなるためです。契約時には、成果物、ドキュメント、データの所有、引き継ぎの範囲に加えて、データの返還・削除、追加費用、サービス終了時の移行、障害時の責任分担も確認し、社内に窓口となる担当を置いておきましょう。
まとめ:DX推進は目的を決めて小さく始めるのが近道です
DX推進とは、デジタル技術を手段として、事業・業務・組織・企業文化を変え、競争上の優位性を築く継続的な取組です。取り組む企業は広がりましたが、成果は効率化に偏り、成長につながる成果と人材の確保が課題になっています。最新のIPA調査(2026年)でも、この構図は変わっていません。
進め方は、現状把握、目的・戦略、体制構築、小規模な実行、評価・改善の5ステップです。つまずいたときは、症状から原因をたどる診断が有効です。次の一手として、まず業務・システム・データの棚卸しに着手し、経営層のスポンサーを決めて、目的の仮説を共有してみてください。
TechHouse.Worksは、スタートアップスタジオとして、出資(最大500万円)と継続的な伴走支援、越境人材のサービス「Beyond Borders」などを通じ、新規事業やDXに挑む企業を支えています。「自社のDXを、何から、誰と進めるか」を整理したい方は、無料相談を申し込むことをおすすめします。
なお、挑戦者に伴走する理由といった思想や原論については、noteでも発信しています。