KGIとKPIの違いとは?KSF・KPIツリーでの分解方法と設定手順を具体例つきで解説
業務設計
2026.10.30
「新規事業の目標はKGIで決めろと言われたが、KPIとの違いが分からず社内会議で説明に詰まった」「OKRを導入しようとしたら、KGI・KPIとの関係を聞かれて答えられなかった」——中堅企業の新規事業・DX推進の現場では、こうした声が少なくありません。
KGI(重要目標達成指標)とKPIは、どちらも目標管理の基本用語ですが、役割も、測定するタイミングも、現場での使い方も異なります。似た言葉を区別せずに運用すると、せっかく立てた目標が形骸化し、現場の行動にもつながりません。
そこで本記事では、KGIとKPIの定義と違いを整理したうえで、KSF(重要成功要因)とKPIツリーを使った分解の考え方、具体的な設定手順、そして設計時によくあるつまずきとその回避策まで、中堅企業の新規事業・DX推進担当者の実務目線で解説します。あわせて、OKRや人的資本経営の指標など混同しやすい関連用語との位置づけの違いも整理します。

沖岡 豊大
我々は誰もが挑戦の歩みを止めず、
失敗を糧に再チャレンジできる寛容な社会の実現を
目指して活動しています。
創業背景としては、エンジニア起業家の養成スクールで得た気づきがきっかけでした。自身のWhy meをプロダクトに落とし込み、投資家に対してピッチを行うのですが、卒業後も挑戦を”続けられる”人間がごく僅かだということを実感しました。志のある優秀な方でも、リスクを背負い、様々なハードシングスを乗り越えながら進み続けることは、実際には非常に困難です。そこで、起業家に同志として寄り添い、何度でも挑戦し続けられる環境を構築したいと思うようになり創業に至りました。
最終的にわたしもいち起業家として、TechHouse.Worksのサポートを得ながら、新たな事業を創るのが私の夢です。
KGI・KPIとは何か?まず押さえておきたい基本の意味

KGI(重要目標達成指標)とは
KGI(Key Goal Indicator、重要目標達成指標)とは、事業や新規事業プロジェクトが最終的に目指す成果を示す指標です。売上高・契約件数・粗利・継続率など、経営の結果そのものを数値で表します。新規事業の「立ち上げ数」のように活動の完了を示す数値は、成果そのものを表すKGIとは区別して扱う方が実務上は安全です。
KGIの達成期間は一律ではなく、事業の性質や管理目的によって変わります。年度や中期計画などの期間で設定されることもありますが、プロジェクトの目的や管理単位によって適切な期間は異なります。「何を達成すれば成功と言えるか」をあらかじめ数値で定義しておくことで、プロジェクトの終着点を関係者で共有できる、という役割自体は変わりません。
KPI(重要業績評価指標)とは
KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)とは、KGIという最終目標に向かう途中の進捗・成果を測るための指標です。商談件数・サイト訪問数といった活動量だけでなく、商談化率・継続率・顧客単価のような転換率や品質に関わる指標もKPIに含まれます。活動量のみをKPIとみなすと、「動いているが成果につながっていない」数値を目標と誤認しやすくなるため注意が必要です。
KGIが「ゴール」であるのに対し、KPIは「ゴールに向かう道のりの進み具合」を示すものと捉えると理解しやすくなります。測定の頻度は指標の性質と意思決定のタイミングによって決まるため一律ではありませんが、月次・週次など短いサイクルで確認し、必要に応じて軌道修正する運用が多く採用されています。
両者を区別せず運用してしまうとどうなるか
KGIとKPIを区別せずに運用すると、現場では「数値を追うこと」自体が目的化しやすくなります。KPIの数値だけが上がっていても、最終的なKGI(売上や新規事業の成果)に結びついていないケースは少なくありません。
新規事業やDX推進のように成果が出るまで時間がかかるテーマでは、この区別が特に重要です。KGIという最終目標と、KPIという中間指標の関係を明確にしておくことが、プロジェクトの軌道修正を早期に行うための前提になります。
とくに新規事業の立ち上げ期は、売上という最終的なKGIが立ち上がるまでの期間が、業種・販売形態・顧客の購買プロセスによって大きく異なります。検証段階にある新規事業では、売上が立つ前に顧客課題の検証件数や有料利用の意向といった指標を、事業化の可否を判断するための検証指標として置くことも実務上は有効です。
これらは売上などの事業成果を測るKGIとは異なる位置づけの指標であり、両者を混同しないことが重要です。いずれの段階でも、KPIの数字だけを見ていると「数字は動いているが事業として成立するか分からない」という状態に陥りやすく、KGIとの対応関係を定期的に確認する仕組みが欠かせません。
KGIとKPIの違いを4つの観点で比較する

KGIとKPIの違いは、「最終目標か中間指標か」という立場の違いだけではありません。測定するタイミング、設定する数、責任を持つ階層という観点からも整理すると、両者の役割の違いがより明確になります。
目標の立場(最終目標か中間指標か)
KGIは事業やプロジェクト全体が目指す最終的な結果を示します。優先順位を明確にするため、1つの事業・プロジェクトに対して1つに絞り込む設計がよく使われますが、財務・顧客・品質・安全など複数の成果軸を同時に管理したい場合は、複数のKGIを併用する設計もあります。一方KPIは、KGIという最終目標に到達するための複数の経路(マーケティング・営業・開発など)ごとに、それぞれ複数設定されるのが一般的です。
測定するタイミングと頻度
KGIの測定頻度は、目標期間と意思決定に必要なデータの更新間隔によって決まるものであり、固定のルールはありません。四半期末・年度末などの区切りで最終結果として測定することが多い一方、年度目標のKGIであっても月次で進捗を確認する運用もあります。対してKPIは、週次・月次など短いサイクルで測定し、数値の変化を見ながら施策を調整していく運用に向いています。
設定する数(1つか複数か)
KGIは「何を達成すれば成功か」を一つに絞り込む設計がよく使われます。複数のKGIを並べると優先順位の判断がつきにくくなるためですが、これは普遍的なルールではなく、主たるKGIを1つ定めたうえで、品質や安全性など見落とせない観点を補助的な成果指標として別に管理する企業もあります。
KPIは複数設定されますが、増やしすぎると現場が数値管理だけに追われてしまうため、絞り込みが必要になります(この点は後述する「よくあるつまずき」で詳しく扱います)。
責任を持つ階層(経営層か現場か)
KGIは事業責任者が最終的な結果に責任を持つ指標であるのに対し、KPIは各部門・各担当者が日々の活動の中で追いかける指標です。
ただしKPIの達成責任を個人評価に直結させすぎると、権限や外部環境の影響を無視した数値の押しつけや、数値だけを動かすための局所最適を招くことがあるため、担当者が実際に持つ権限・資源とセットで責任範囲を設計する必要があります。KGIとKPIの対応関係が崩れると、現場の努力が経営の目標に反映されない状態に陥ります。
なお、KGI・KPIという呼び方自体は絶対的な階層を示すものではありません。ある部門のKPIが、その部門の中ではKGIに相当する最終目標として扱われることもあり、どちらの立場を取るかは「どの範囲の最終目標として見るか」によって変わります。
4つの観点の違いを整理すると、以下のようになります。
| 観点 | KGI | KPI |
| 位置づけ | 最終目標(ゴール) | 中間指標(プロセス) |
| 設定数(よくある運用) | 1つに絞ることが多い | 複数(部門・施策ごと) |
| 測定頻度(よくある運用) | 四半期〜年次 | 週次〜月次 |
| 責任の階層 | 事業責任者(最終責任) | 各部門・担当者(権限・資源とセットで設計) |
| 具体例 | 売上高〇億円、粗利〇億円 | 商談件数、商談化率、顧客接点数 |
なお、上記は実務でよく使われる設計例であり、組織・事業フェーズによって最適な設定数や頻度は異なります。表に整理すると違いが明確に見えますが、実務では「このKPIは本当にKGIに効いているのか」を都度確認する作業の方が難しくなります。次のKSF(重要成功要因)は、KGIとKPIの間にあるこのつながりを言語化するための考え方です。
KSF(重要成功要因)を押さえてからKPIを設定する理由

KSFとは何か
KSF(Key Success Factor、重要成功要因)とは、KGIという最終目標を達成するために「特に重要になる要因」を指す言葉です。「何に力を入れれば目標に近づくか」という成功の鍵を言語化したものであり、定性的な言葉で表すこともあれば、測定可能な要因として定義することもあります。KPIは、特定したKSFがどの程度進んでいるかを数値で測るための指標として設計します。
KGI→KSF→KPIという順序で考える意味
KPIを設定する際、KGIから直接KPIへ飛ぶと、現場の活動と最終目標のつながりが見えにくくなります。基本的にはKGI(最終目標)→KSF(成功の鍵となる要因)→KPI(それを数値化した指標)という順序で考えますが、実務では一直線に進むとは限りません。
特に新規事業では、顧客課題や事業仮説の検証結果、入手可能なデータの範囲を確認しながら、KGI・KSF・KPIの間を何度か往復して設計を固めていくのが実態に近い進め方です。この順序を意識することで、「なぜこのKPIを追うのか」を関係者全員が説明できる状態になります。
KSFを特定する際の視点
KSFを特定する際は、自社の事業特性や、ICP(理想の顧客像)の購買プロセスを踏まえて考えることが欠かせません。
たとえば新規事業の立ち上げ期であれば「意思決定者への到達しやすさ」や「顧客課題の強さ」がKSFの候補になりやすく、紹介を成長ドライバーとする事業であれば「既存顧客が紹介したくなる関係の維持」がKSFの候補になり、その進捗を測るKPIとして「既存顧客からの紹介率」を置く、といった組み立てが考えられます。
ただしこれらはあくまで候補であり、業種や販売モデルによって重要度は異なるため、実際のKSFは自社の顧客・事業モデルに基づく仮説検証を通じて特定するものです。
KSFは一度に複数見つかることも多いですが、すべてを同じ重みで扱うと、後続のKPIツリーが肥大化します。経営目標への影響度が高いものから優先して分解を始めるのが実務的な進め方です。
KPIツリーでKGIをKPIへ分解する手順

KSFを特定したら、そのKSFに関する仮説を、測定可能なKPIや検証指標に落とし込んでいきます。この分解作業を図式化したものがKPIツリーです。
KPIツリーの基本構造
KPIツリーとは、頂点にKGIを置き、そこから下位のKPIへ因果関係や算式に基づいて要素分解していく図のことです。KSFをツリーの中間層に置いて整理する方法もありますが、KSFを必ず挟む構造が決まっているわけではありません。
「売上=件数×単価」のように計算上分解できる関係と、「人材の確保が事業成果に寄与する」といった検証が必要な因果関係を分けて捉えることで、どのKPIを動かせばKGIに影響するかが見えやすくなります。
分解の4ステップ
KPIツリーの作成は、おおむね次の4ステップで進めます。
- 頂点にKGI(最終目標)を置く
- KGI達成に必要なKSF(成功要因)を洗い出す
- 各KSFについて、定量指標や定性評価を含む検証方法を定める
- KPI同士の関係(足し算・掛け算・率・平均など)を確認し、重複計上や漏れがないか、算式として成立しているかを検証する
分解イメージの具体例
たとえば「新規事業の初年度受注額〇千万円」というKGIであれば、「受注額=受注件数×平均受注単価」という算式でまず数値指標に分解します。さらに「受注件数=商談件数×商談からの受注率」のように分解を進めると、現場で追跡・改善できる「商談件数」「受注率」といった指標までブレイクダウンできます。
このとき「受注単価」や「受注件数」自体は計算上の構成要素(KPI)であり、KSFにあたるのは、たとえば「十分な商談機会を確保できているか」「提案の質が受注率を左右しているか」といった、その数値を動かす要因の方です。
なお、受注額と売上高は計上タイミングが異なります。受注は契約成立の時点を指すのに対し、売上(収益)は納品・検収などを通じて顧客への財・サービスの提供が完了した時点で認識されるため、KGIを売上高で置く場合は、その年度に計上された売上で測る旨をあらかじめ定義しておく必要があります。
分解しすぎ・粗すぎを避けるポイント
KPIツリーは分解すればするほど精緻になりますが、現場が追いきれない数のKPIを並べると運用が破綻します。逆に粗すぎると、KPIを動かす具体的なアクションが見えてきません。確認するKPIの数に決まった正解はありませんが、日々の意思決定に使う指標は、担当者が行動を変えられる範囲に絞り、それ以外は原因分析が必要なときに確認する補助指標として管理するという整理が実務的です。
分解の深さに迷った場合は、「その指標を見て、翌週の行動を具体的に変えられるか」を基準にすると判断しやすくなります。行動が変わらない指標まで分解を続けても、現場の負担が増えるだけで運用上の価値は乏しいためです。
業種・部門別に見るKGI・KPIの具体例

KGI・KPIの考え方は業種や部門によって当てはめ方が異なります。ここでは中堅企業で新規事業・DX(デジタルトランスフォーメーション。経済産業省が2024年9月に改訂した「デジタルガバナンス・コード3.0」では、単なるシステム導入ではなく、データとデジタル技術を活用して製品・サービス、ビジネスモデル、業務、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する取り組みと位置づけられている)推進に関わる機会が多い3つの観点から具体例を見てみます。
新規事業・DX推進部門の例
新規事業の立ち上げ期であれば、KGIを「新規事業の初年度受注額〇千万円」、KSFを「ターゲット顧客との接点の質」、KPIを「商談からの受注率」「有料トライアル導入数」とするような設計が考えられます。ただし立ち上げ直後の検証段階では、売上が立つ前に「顧客課題の検証件数」「有料利用の意向」を、事業化の可否を判断するための検証指標として置くこともあります。
DX推進の場合は、既存業務の効率化を目的とするプロジェクトか、事業そのものの変革を目的とするプロジェクトかで、KGIの置き方が変わります。業務効率化であれば、KGIを「対象業務の処理時間削減率」、KPIを「システム導入後の入力漏れ件数」「エラー・再作業の発生件数」といった形で設定するケースが考えられます。
一方、新たな顧客価値や事業モデルの変革を目指すDXであれば、KGIを「デジタル経由の新規顧客数」「新サービスの継続率」のように事業成果に近い指標で置く必要があります。
業務時間の削減率だけをDX全体のKGIとしてしまうと、DXを業務効率化に限定した取り組みと誤解しやすいため、どちらを目的とするプロジェクトかを明確にしたうえで指標を選ぶことが重要です。いずれの指標も、対象業務・基準期間・測定方法を事前に定義しておかないと、削減率や件数の意味が部門間でずれてしまう点に注意が必要です。
ハウスメーカー・不動産業における例
ハウスメーカーや不動産業では、KGIを「紹介経由の成約件数」、KSFを「引き渡し後の顧客接点の継続」、KPIを「アフターフォローの実施件数」「OB顧客からの紹介件数」とする設計が考えられます。新規の獲得だけでなく、既存顧客との関係を資産として捉える視点がKSFに反映されやすい業種です。
建設業における例
建設業では、KGIを「受注案件の粗利率」、KSFを「見積精度と工程管理の質」、KPIを「案件別の原価差異率(予定原価と実際原価の差を予定原価で割った比率)」「手戻り・追加工事にかかった費用」といった、粗利への影響が直接確認できる指標で設定することが考えられます。
金額差ではなく比率で見ることで、案件規模が異なる複数の案件を同じ基準で比較できます。見積から受注までのリードタイムや工程の遅延件数も管理上は有用ですが、それ単体では粗利率への影響が見えにくいため、費用換算した指標と組み合わせて使うのが実務的です。
数値化しにくい「品質」や「安全性」をKPIに落とし込む際は、事故件数や検査合格率など測定可能な代替指標に置き換える工夫が必要になります。
人材確保・組織づくりの観点を含む例
新規事業の立ち上げでは、事業そのもののKGI・KPIに加えて、推進体制を支える人材確保もKSFになりやすい領域です。「新規事業推進チームの立ち上げ完了」自体はマイルストーン(出力指標)であり、チームを組んだだけでは事業成果を示しません。
KGIは事業側の成果指標(売上・粗利等)とし、「必要スキルを持つ人材の確保」をKSFに、「候補者との面談件数」「採用決定までの期間」をその進捗を測るKPIに位置づけると、事業成果とのつながりを保ちやすくなります。
ただし面談件数や採用決定までの期間だけでは、実際に必要な能力を持つ人材を確保できたかまでは判断できないため、「必要スキルの充足率」「入社後の定着率・活躍度」なども目的に応じて組み合わせる必要があります。社内の人事異動だけで体制を組めない場合、外部人材の活用を選択肢に含めて検討するケースもあります。
いずれの業種・部門の例にも共通するのは、主たるKGIを一つに絞る設計を基本例としたうえで、そこから枝分かれするKSF・KPIを業種特性に合わせて具体化している点です。他社の事例をそのまま当てはめるのではなく、自社のICP(理想の顧客像)や事業フェーズに応じてKSFを特定することが出発点になります。
KGI・KPIを設定する実践ステップ

ここまでの考え方を踏まえ、実際にKGI・KPIを設定する際の流れを整理します。
ステップ1:KGIを明確にする
まず、事業計画や経営目標を踏まえて、最重要のKGI、または複数の成果軸からなるKGI群を定めます。「売上を伸ばす」のような抽象的な表現ではなく、「〇年〇月までに売上高〇円を達成する」のように、数値と期限をセットで明確にすることがポイントです。複数の候補が挙がった場合は、経営層と事業責任者の間で、どれを最終目標とするか、あるいはどれを併用するかの認識を合わせておく必要があります。
ステップ2:KSFを特定しKPIツリーで分解する
次に、KGI達成の鍵となるKSFを特定し、前述のKPIツリーの考え方で数値化できるKPIへ分解します。この段階は現場を巻き込んで行うと、後の運用がスムーズになります。
ステップ3:先行指標と遅行指標を組み合わせて選ぶ
KPIには、結果が出た後に分かる「遅行指標」(売上・成約件数など)と、結果に先行すると見込まれる行動量を示す「先行指標」(商談件数・訪問件数など)があります。遅行指標だけを追うと軌道修正が遅れるため、先行指標と遅行指標を組み合わせて選ぶことが実務上のポイントです。
先行・遅行はあくまで指標の時間的な性質を表すものであり、現場と経営層のどちらが見るかを直接決めるものではありません。先行指標が本当に遅行指標(成果)を予測できているかは、運用しながら相関関係を確認していく必要があります。
ステップ4:現場の行動に落とし込み運用ルールを決める
最後に、設定したKPIを「誰が」「いつ」「どう測るか」まで具体化します。指標名・算式・データの取得元・対象範囲・更新頻度・責任者・目標値を一つずつ言語化しておくと、測定方法のズレを防ぎやすくなります。あわせて、数値が目標から外れた場合にどのタイミングで誰が対応を判断するのかという、エスカレーションの基準も事前に決めておくと、運用が始まった後の混乱を避けられます。
KGI・KPI設計でよくあるつまずきとその回避策

KGI・KPIの考え方自体を理解していても、実際の設計・運用では共通のつまずきが見られます。代表的な4つを整理します。
指標の数を絞れず現場が疲弊する
KPIツリーで丁寧に分解すればするほど、指標の数は増えていきます。すべてを現場に追わせようとすると、数値管理だけで時間が取られ、本来の業務が圧迫されます。回避策としては、KGIへの影響度が大きいKPIを意思決定に必要な最小限まで絞り、残りは定期的な確認のみで済ませる補助指標として扱うことが挙げられます。
先行指標と遅行指標を混同する
売上や成約件数のような遅行指標ばかりをKPIに設定すると、問題が発覚した時点ではすでに手遅れになっているケースがあります。商談件数や訪問件数といった先行指標を併用し、結果が出る前の段階で軌道修正できる設計にすることが回避策になります。
測れない・動かせない指標を採用してしまう
「顧客満足度の向上」のように、測定方法が定まっていない指標や、現場の努力だけでは動かせない市況要因に左右される指標をKPIにしてしまうと、達成度の判断ができません。KPIの中心は定量指標ですが、測定方法・判断基準・責任範囲を明確にできれば、定性的な評価を組み込むことも可能です。
満足度のような定性的なテーマを扱いたい場合は、質問項目と尺度を決めた満足度スコアのように測定可能な形に落とし込んだうえで、リピート率など行動に基づく指標と組み合わせて扱う必要があります(アンケートの回答数は調査の実施状況を示す指標であり、満足度そのものの代替にはなりません)。
現場の行動に落ちていない指標になる
KPIツリーの上で整合性が取れていても、現場が「具体的に何をすればこの数値が動くのか」を理解できていなければ、指標は形だけのものになります。KPIを設定する段階から現場の担当者を巻き込み、日々の行動とKPIのつながりを具体的に確認しておくことが欠かせません。経営層が机上で設計したKPIを現場に一方的に通知するだけの進め方は、このつまずきを招きやすい典型例です。
OKR・人的資本経営の指標とは何が違うのか

KGI・KPIと混同されやすい関連用語として、OKRと人的資本経営の指標があります。それぞれの位置づけを簡単に整理します。
OKRとの違い
OKR(Objectives and Key Results)とは、目標(Objective)と、その達成度を測る主要な結果(Key Results)を組み合わせた目標管理の手法です。
KGI・KPIが指標そのものを指す言葉であるのに対し、OKRは目標設定・運用のフレームワーク全体を指すという違いがあります。KGI・KPIの一部をOKRの枠組みに組み込んで併用する設計も可能であり、両者は対立する概念ではありません。
OKRの運用例としては、Googleが自社のOKR運用ガイド「re:Work」で、達成率0.6〜0.7程度を挑戦的な目標の「スイートスポット」として紹介していることが知られています。ただしこれはGoogleの運用例であり、OKRに共通する基準ではありません。
KGIは経営目標として達成・未達を明確に判断する運用が多い一方、OKRでは未達を前提としたストレッチ目標を許容する運用もあり、この達成基準の考え方の違いは、両者を使い分ける際の判断材料になります。
KGI・KPI・KSF・OKRの関係を整理すると、以下のようになります。
| 用語 | 位置づけ | 特徴 |
| KGI | 最終目標(指標) | 事業の最終成果を数値で示す |
| KPI | 中間指標 | KGIに向かう進捗を数値で示す |
| KSF | 成功要因 | 数値ではなく「何が重要か」を言語化する |
| OKR | 目標管理の手法 | 目標(O)と主要な結果(KR)を組み合わせた運用の枠組み |
人的資本経営におけるKPIとの関係
近年は、人材戦略に関する指標を経営目標に組み込む人的資本経営という考え方も広がっています。
内閣官房・金融庁・経済産業省が2026年3月23日に改訂・公表した「人的資本可視化指針(改訂版)」では、経営戦略と人材戦略を連動させて指標を開示する方向性が強化されており、人的資本に関する指標を事業戦略から切り離された別枠として扱うのではなく、両者の因果関係を整理したうえで設計することが重視されています。
新規事業の推進体制を支える人材の確保・育成がKSFになるケースもあるように、人的資本の指標と新規事業・DX推進のKGI・KPIは重なり合う場面があります。本記事ではKGI・KPIの基本的な違いに絞って解説しているため、人的資本経営における指標の設計については、別の機会に詳しく取り上げます。
KGI・KPIを形骸化させず運用し続けるための視点

KGI・KPIは設定した時点で終わりではありません。運用を続ける中で形骸化させないための視点を整理します。
定期的な見直しサイクルを決める
市場環境や事業フェーズが変化すれば、当初設定したKGI・KPIが実態に合わなくなることがあります。KGIは目標期間中に頻繁に変更するものではなく、前提条件や経営方針が大きく変わった場合に、変更理由を記録したうえで見直します。
KPIは週次・月次・四半期など意思決定の周期に応じて見直すというように、指標の性質に合わせて見直しのタイミングを決めておくことで、目標と実績の比較可能性を保ちながら指標を現状に合わせて調整し続けられます。
ダッシュボード等で可視化し現場と共有する
KPIの数値を担当者だけが把握している状態では、組織全体の動きにつながりません。ダッシュボードなどで数値を可視化し、経営層・現場の双方が同じ数値を見られる状態にしておくことが、指標を機能させるための前提になります。
外部の視点を取り入れる判断基準
新規事業やDX推進のように、社内に前例の少ないテーマでKGI・KPIを設計する場合、自社だけで検討すると指標が偏りやすくなります。業界外の視点や他社での実践例を持つ外部人材・専門家の意見を取り入れることで、KPIツリーの抜け漏れに早く気づけることがあります。
TechHouse.Worksでも、個人や組織が所属・業界の境界を越えて社外の事業・プロジェクトに参画したり、組織間で協業したりすることで学びと変化を生み出す「Beyond Borders」というプログラムを提供しています。社内だけでKGI・KPIの設計を抱え込まず、外部の視点を取り入れる選択肢の一つとして、専門家への相談もご活用ください。詳しくはお気軽にお問い合わせください。
KGI・KPI設定を始める前のチェックリスト

KGI・KPIの設計に着手する前に、次の点を確認しておくと、後の手戻りを減らせます。
- KGI(最終目標)を数値と期限の両方で定義できているか
- KGI達成の鍵となるKSF(成功要因)を言語化できているか
- 必要に応じてKPIに先行指標・遅行指標を組み合わせているか
- 各KPIについて「誰が」「いつ」測定するかを決めているか
- 設定したKPIが現場の具体的な行動に結びついているか
よくある質問
Q1. KGIとKPIはどちらを先に決めるべきですか?
先にKGI(最終目標)を決め、そこからKSF・KPIへ分解していくのが基本的な順序です。KPIを先に決めてしまうと、測りやすい指標だけが並び、最終目標とのつながりが弱くなりやすいためです。
Q2. KPIはいくつ設定するのが適切ですか?
明確な正解はありませんが、現場が無理なく追い続けられる数に絞ることが優先されます。KPIツリー上で多くの指標が洗い出されたとしても、定例会議で意思決定に使う指標は担当者が行動を変えられる範囲に絞り、その他の指標は原因分析が必要なときに確認する補助指標として管理する設計が考えられます。
Q3. KGIとOKRはどちらを使うべきですか?
KGI・KPIとOKRは対立する選択肢ではなく、組み合わせて使えるものです。ただしObjectiveは定性的な方向性を示す目標、Key Resultsはその達成度を判定する測定可能な成果であり、KGI・KPIと1対1で対応するわけではありません。
KGIの一部をObjectiveの達成基準に、KPIの一部をKey Resultsに活用する運用はありますが、活動量の指標をそのままKey Resultsに置くとは限らない点に注意が必要です。
Q4. 小規模な部門や個人の目標にもKPIツリーは使えますか?
使えます。部門や個人単位でも、「最重要の結果、または複数の成果軸(KGIに相当する目標)」を定め、そこに向けた日々の行動指標(KPIに相当する指標)を設定するという考え方は同じように応用できます。
Q5. KPIツリーは誰が作るべきですか?
経営層や事業責任者だけで作ると、現場の実態と離れた指標になりやすくなります。KGIの最終承認は経営層・事業責任者が担い、設計には現場・関係部門も参加するという役割分担にすると、設計と運用の両方が機能しやすくなります。
まとめ
KGIは事業やプロジェクトが最終的に目指す結果を示す指標であり、KPIはそこに至る過程の進捗・成果を示す指標です。両者の違いを理解したうえで、KSF(成功要因)を手がかりにKPIツリーで分解し、必要に応じて先行指標と遅行指標を組み合わせて設定することが、形骸化しない目標管理につながります。
一度設定したら終わりではなく、指標の性質に応じた見直しと現場との共有を続けることで、KGI・KPIは新規事業やDX推進を前に進めるための実際に機能する道具になります。
TechHouse.Worksでは、起業家デューデリジェンスによる審査を経たうえで、シード〜アーリー期のスタートアップを対象に最大500万円を出資する「Boot Up!」というプログラムを提供しており、KGI・KPIの考え方を事業の現場に落とし込むための支援も、個別の支援メニューの中でご相談いただけます。
自社だけでの目標設計に限界を感じている場合や、「自社の挑戦を、誰と一緒に進めるか」を検討されている方は、お気軽にご相談ください。なお、挑戦者への伴走や組織づくりの思想については、noteでも発信しています。