ペーパーレス化とは?メリット・デメリットと進め方、電子帳簿保存法対応を解説

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2026.11.5

ペーパーレス化に向けて紙の書類から電子データへ前向きに移行する中堅企業の担当者たちの線画イラスト

「紙の請求書や契約書の処理に、毎月何時間も取られている」「電子帳簿保存法に対応しなければと分かっていても、何から手をつければいいか分からない」。新規事業やバックオフィスの担当者から、こうした声をよく聞きます。

紙の書類は、保管場所の確保や検索の手間、承認が回ってくるまでのタイムラグなど、見えにくいコストを積み重ねています。電子取引データを紙だけで保存する運用を続けると、電子帳簿保存法上の保存要件を満たさないリスクがあります。

一方で、ペーパーレス化は書類を電子データに変換すれば終わるものではありません。対象書類の棚卸し、法制度への対応、ツール選定、社内への浸透まで、段階を踏んで進める必要があります。

そこで本記事では、ペーパーレス化の基本的な意味から、メリット・デメリット、電子帳簿保存法・電子契約への対応、具体的な進め方までを、中堅企業の実務担当者の視点で整理します。

沖岡 豊大

沖岡 豊大

我々は誰もが挑戦の歩みを止めず、
失敗を糧に再チャレンジできる寛容な社会の実現を
目指して活動しています。

創業背景としては、エンジニア起業家の養成スクールで得た気づきがきっかけでした。自身のWhy meをプロダクトに落とし込み、投資家に対してピッチを行うのですが、卒業後も挑戦を”続けられる”人間がごく僅かだということを実感しました。志のある優秀な方でも、リスクを背負い、様々なハードシングスを乗り越えながら進み続けることは、実際には非常に困難です。そこで、起業家に同志として寄り添い、何度でも挑戦し続けられる環境を構築したいと思うようになり創業に至りました。
最終的にわたしもいち起業家として、TechHouse.Worksのサポートを得ながら、新たな事業を創るのが私の夢です。

ペーパーレス化とは

紙の書類とノートPCを見比べながらペーパーレス化の定義を確認する担当者の線画イラスト

ペーパーレス化という言葉は広く使われていますが、電子化やデジタル化と混同されがちです。まずは言葉の範囲を整理したうえで、なぜ今あらためて取り組む必要があるのかを確認します。

ペーパーレス化の意味と電子化・デジタル化との違い

ペーパーレス化とは、紙の文書・資料や紙で回している手続きを、電子データ・電子手続きへ置き換える取り組みです。単に紙をスキャンして画像にすることではなく、その後の検索・共有・承認・保存までをデータ上で完結させる状態を目指す点がポイントです。

「電子化」は紙をデータに変換する作業そのものを指すことが多く、ペーパーレス化はその電子化を手段として、紙運用自体をやめていくプロセスを指します。例えば、契約書をスキャンしてPDF化しただけでは電子化に過ぎず、その後も紙の原本を正本として保管し続けているなら、ペーパーレス化はまだ完了していません。

ただし、「原本も電子データに置き換えられるか」は、書類の発生経路によって扱いが異なります。最初から電子データで作成・授受した書類(メール添付の請求書など)は、電子データそのものが原本です。

一方、紙で受け取った国税関係書類(請求書・領収書・契約書など)をスキャンして電子化する場合は、後述する電子帳簿保存法のスキャナ保存の要件を満たせば紙の原本を処分できますが、要件を満たさない場合は紙の原本の保管が必要です。

国税関係書類に当たらない書類は、スキャナ保存の対象外であり、それぞれの法令・社内規程に基づいて保存の要否を確認します。どちらに当たるかは書類ごとに確認する必要があります。

デジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)は、業務や事業のあり方そのものを変える、より広い概念です。ペーパーレス化はその土台となる取り組みの一つと位置づけられます。デジタル化とDXの違いそのものについては、別記事で詳しく整理しています。

ペーパーレス化が目指すもの

ペーパーレス化が目指すのは、紙運用に紐づくコスト・リスク・非効率を減らすことです。印刷代や保管スペースといった直接的なコストだけでなく、書類を探す時間、承認が滞留する時間、紛失や情報漏えいのリスクも対象になります。

これらは個々には小さく見えても、積み重なると組織全体の生産性に影響します。ペーパーレス化は、こうした見えにくいコストを可視化し、減らしていくための手段と言えます。

なぜ今あらためてペーパーレス化が必要なのか

ペーパーレス化が改めて注目される背景には、法制度の変化や社会全体のデジタル化の進展があります。2024年1月1日以後に行う電子取引については、やり取りした請求書や領収書などのデータを、電子帳簿保存法の保存要件に従って電子データのまま保存する必要があります(国税庁、2024年)。紙に印刷して保存するだけでは、この電子取引データの保存要件を満たしません。

また、独立行政法人中小企業基盤整備機構の調査によると、DXに「既に取組んでいる」または「取組みを検討している」企業(2024年調査:420社)のうち、具体的な取組み内容として「文書の電子化・ペーパーレス化」を挙げた割合は57.6%と最も高くなっています。

2025年調査(391社)でも55.8%とほぼ横ばいで推移しており(中小企業基盤整備機構「中小企業のDX推進に関する調査」2024年・2025年)、DXに取り組む企業の多くが、まず文書のペーパーレス化から着手している実態がうかがえます。法対応と業務改善の両面から、ペーパーレス化への着手を後回しにしづらい状況になっていると言えます。

ペーパーレス化が注目される背景

電子帳簿保存法や働き方の変化という背景を見据えて話し合う担当者の線画イラスト

法制度の変化だけでなく、働き方の多様化や社内のデジタル投資全体の流れも、ペーパーレス化を後押ししています。

電子帳簿保存法による電子取引データ保存の義務化

電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿や書類を電子データで保存する際のルールを定めた法律です。

2022年度の税制改正で設けられた宥恕措置は2023年12月31日で終了し、2024年1月1日以降は、電子取引データの保存要件への対応が困難だったことについて「相当の理由」があると認められる場合に限り、保存要件によらない保存が認められる新たな措置へ移行しています(国税庁、2024年)。詳細は後述の「法対応のポイント」で扱います。

働き方改革・多様な働き方への対応

テレワークやハイブリッドワークが広がる中、紙の書類がオフィスに縛られる働き方の障害になるケースが増えています。契約書や請求書の押印・回覧のために出社が必要な状態では、多様な働き方に対応しきれません。「書類を取りに行くためだけに出社する」という状況は、働き方改革の趣旨とも相反します。ペーパーレス化は、こうした働き方の制約を取り除く手段としても位置づけられます。

中堅企業のDX推進における位置づけ

TechHouse.Worksでは、中堅企業のDX推進を、デジタル化(紙・手作業の電子化)、顧客接点の改革、新規事業の創出という順序で進める考え方を一つの進め方として提案しています。ペーパーレス化は、この最初の段階に位置する取り組みです。

経済産業省の資料でも、DXの各段階を必ず下から順に進めるべきものとは位置づけられておらず、経営課題や事業特性に応じて、業務改革・顧客接点改革・新規事業・データ活用を並行して検討する企業もあります(経済産業省)。

ただし、紙の書類に閉じたままでは、顧客との取引履歴や社内の業務データを分析に使うことはできません。ペーパーレス化によって業務データが電子化されることは、その後の顧客接点の改善や新規事業の検討に使えるデータ基盤を整える土台になります。DX全体の進め方そのものについては、別記事で詳しく解説しています。

ペーパーレス化のメリット

ペーパーレス化によるコスト削減や業務効率化の効果を前向きに確認する担当者の線画イラスト

紙運用をやめることで得られる効果は、コスト面だけではありません。業務効率や働き方、セキュリティなど複数の観点から整理します。

コスト削減

印刷代や用紙代、保管用のファイル・キャビネット、書庫スペースの賃料など、紙運用には多くの直接コストがかかっています。契約書や請求書を外部の倉庫で保管している企業では、保管料や出し入れの搬送費も発生します。

電子データでの保存に切り替えることで、これらのコストを段階的に圧縮できます。削減の規模は書類の種類や量によって幅があるため、自社の印刷・保管コストを一度洗い出してみることが効果の見積もりにつながります。

業務効率・生産性の向上

紙の書類は、必要なときに探し出すまでに時間がかかります。ファイルの山から該当の書類を探す、他部署に保管場所を確認するといった作業は、積み重なると大きな工数になります。電子データであれば検索性が高く、必要な書類にすぐアクセスできます。承認も、電子ワークフローを使えば出社や対面を待たずに進められるため、業務全体のスピードが上がります。

情報共有のスピードとセキュリティの強化

紙の書類は、複数人での同時参照や遠隔地への共有に手間がかかります。電子データであれば、権限を設定したうえで複数拠点から同時にアクセスできます。アクセス権限の管理や操作履歴の記録がしやすくなる点も、紙運用にはなかったセキュリティ面のメリットです。

多様な働き方・BCP対策への対応

書類が電子データ化されていれば、オフィス以外の場所からも業務にアクセスできます。災害や感染症の流行など、オフィスに立ち入れない事態が発生した際にも、事業を継続しやすくなります。これはBCP(事業継続計画)の観点からも評価されている効果です。

ペーパーレス化のデメリットと注意すべき課題

初期投資やITリテラシーの差といった導入課題を慎重に確認する担当者の線画イラスト

メリットだけでなく、導入段階で注意すべき課題も正しく理解しておく必要があります。

初期投資とシステム導入の負担

文書管理システムやワークフローシステムの導入には、初期費用やライセンス費用がかかります。対象書類の量や従業員数によって投資規模は変わるため、小さく始めて効果を確認しながら範囲を広げる進め方が現実的です。導入コストの一部は、後述する補助金制度で軽減できる場合もあります。

社内のITリテラシー・浸透度の差

紙での運用に慣れた従業員にとって、電子データでの業務は操作面でのハードルになることがあります。部署やメンバーによってITリテラシーに差があるため、一律のルールを急に導入すると、現場での運用が定着しないまま形骸化するリスクがあります。

セキュリティ対策・システム障害への備え

電子データは、紙にはなかった種類のリスクも伴います。不正アクセスや誤操作によるデータ漏えい、システム障害によるアクセス不能などです。アクセス権限の設計やバックアップの仕組みを、導入時にあわせて検討しておく必要があります。システム障害時に業務が完全に止まってしまわないよう、一定期間はデータの出力・確認ができる代替手段を用意しておくことも、実務上の備えとして検討に値します。

ペーパーレス化の対象書類を棚卸しする

対象書類を種類ごとに分類し優先順位を話し合う担当者の線画イラスト

ペーパーレス化を進める最初の実務は、どの書類を対象にするかを洗い出すことです。全社一斉にすべての書類を切り替えるのではなく、優先順位をつけて段階的に進めます。

対象になりやすい書類の種類

対象になりやすいのは、請求書・見積書・契約書・注文書といった社外とやり取りする取引文書、会議資料や社内回覧文書、名刺、出張申請や経費精算に関わる社内書類などです。

棚卸しの際は、書類を「メール添付のPDF請求書やクラウド請求書サービスで受領したデータなど、最初から電子データとして授受したもの」「紙で受領してスキャンするもの」「社内で最初から電子作成するもの」の3つに区分しておくと、どの制度区分が適用されるかを判別しやすくなります(国税庁の電子帳簿保存法の区分に対応)。

取引先との間で国税関係書類に該当する取引情報(請求書・領収書・注文書等)を電子データでやり取りした場合は、前述の電子帳簿保存法の電子取引データ保存の対象になるため、優先度が高くなります。

一方で、パンフレットやカタログなど社外向けの販促物は、法令上の保存義務がないため、業務上の必要性に応じて対象にするかどうかを柔軟に判断できます。すべての書類を同じ基準で扱う必要はなく、法対応が必要な書類と、業務効率化の観点だけで判断できる書類を区別しておくと、優先順位をつけやすくなります。

優先順位の付け方

優先順位は、発生頻度・保管コスト・業務への影響度の3つの観点で判断します。発生頻度が高く保管コストがかさんでいる書類から着手すると、効果を早く実感でき、社内の協力も得やすくなります。逆に、発生頻度が低くリスクも小さい書類は、後回しにしても支障がありません。

保存義務がある書類への注意

書類の中には、法律で保存期間や保存方法が定められているものがあります。法人の帳簿・国税関係書類は、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から原則7年間、青色申告書を提出した事業年度に欠損金額が生じた場合などは最長10年間の保存が必要です(国税庁)。

これは法人税に関する帳簿書類についての説明であり、個人事業者や書類の種類によって扱いが異なる場合があるため、自社の状況に応じて個別に確認することをお勧めします。

また、業種によっては国税関係書類とは別の法令で保存期間が定められているものもあります。例えば建築士事務所には、設計図書等を15年間保存する義務があります(国土交通省)。

これらの書類を電子データ化する際は、書類の発生経路に応じて、電子取引データ保存またはスキャナ保存のどちらの要件に当たるかを区別して保存する必要があります。

保存期間を経過した書類は、税法上の保存義務がなくなった後も、他の法令・契約・訴訟対応・社内規程で保管が必要とされていないかを確認したうえで廃棄を判断すると安心です。期間中に誤って削除してしまうと保存義務違反になるため、保存期間の管理もあわせてシステム上で行えるようにしておくとよいでしょう。

電子帳簿保存法・電子契約への法対応のポイント

電子帳簿保存法や電子契約の要件を一つずつ丁寧に確認する担当者の線画イラスト

ペーパーレス化を進めるうえで、最も実務上の判断が難しいのが法対応です。ここでは電子帳簿保存法と電子契約・電子署名の2つの観点から整理します。

電子取引データ保存の義務化と猶予措置

2024年1月1日以降、電子取引でやり取りした請求書・領収書・注文書などのデータは、原則として改ざん防止の仕組みを備えたうえで電子データのまま保存することが義務になっています(国税庁)。2022年度税制改正で設けられていた宥恕措置は2023年12月31日で終了しました。

その後の2024年1月1日以降は、保存要件に従って電子取引データを保存できなかったことについて「相当の理由」があると所轄税務署長が認める場合に限り、税務調査時にデータのダウンロードおよび出力した書面の提示・提出の求めに応じられることを条件に、改ざん防止・検索機能といった保存要件によらずに電子取引データを保存しておくことが認められています(国税庁)。

相当の理由としては、システム整備が間に合わない等の事情が挙げられますが、人手不足や単なる対応の遅れだけで当然に認められるとは限らず、個別の事情に応じた判断になります。

この措置は保存要件への対応を免除するものであり、電子取引データ自体の保存をしなくてよいという意味ではありません。あくまで例外対応であり、恒久的に紙保存へ戻せる制度ではない点に注意が必要です。

電子契約・電子署名の法的効力

契約書を電子データで締結する場合は、電子署名法が関係します。この法律は、本人だけが行うことができるものに限られる電子署名(固有性の要件)が行われている電子文書について、本人の意思に基づき作成されたものと推定する規定を設けています(電子署名法第3条)。電子契約サービスを利用しただけで自動的にこの推定が適用されるわけではなく、サービスの仕組みが法定の要件を満たしているかを個別に確認する必要があります。

2020年には、総務省・法務省・経済産業省の3省が連名で、クラウド型の電子契約サービスについての解釈を示すQ&Aを公表しました(法務省、2020年)。これにより、利用者本人が自らの判断で契約内容を確定させ、サービス提供事業者の署名鍵で暗号化等を行う方式の電子契約サービスについても、一定の要件のもとで電子署名法上の電子署名に該当し得るとの考え方が整理されています。

法対応を進める実務上の注意点

電子取引データ保存では、「真実性の確保(改ざん防止)」と「可視性の確保」の2つが要件になります。

真実性の確保は、タイムスタンプが付与されたデータを受け取る方法、保存するデータにタイムスタンプを付与する方法、データの授受と保存を訂正削除履歴が残るシステム(または訂正削除ができないシステム)で行う方法、不当な訂正削除の防止に関する事務処理規程を定めて運用する方法のいずれかを満たすことで対応します。タイムスタンプは、この真実性確保のための選択肢の一つという位置づけです。

可視性の確保は、モニター・操作説明書等の備え付けと、検索機能の確保(原則として取引年月日・取引金額・取引先で検索できること)の両方を満たす必要があります。ただし検索機能の確保については、基準期間の売上高が5,000万円以下で、税務調査時にデータのダウンロードの求めに応じられる場合には不要になるなど、事業者の状況に応じた緩和措置があります。

紙で受け取った国税関係書類をスキャンして保存する「スキャナ保存」についても、電子帳簿保存法に要件が定められています。一定水準以上の解像度での読み取りや、入力期間内の入力を確認できる形でのタイムスタンプの付与、読み取った画像が原本の記載内容を正しく再現していることを確認できる状態にしておくことなどが求められます。

訂正・削除履歴が残る、または訂正・削除できないシステムに入力期間内に保存したことが確認できる場合は、その確認をもってタイムスタンプの付与に代えることができます。

要件を満たせば紙の原本を処分できますが、電子取引データ保存とスキャナ保存は対象となる書類の発生経路が異なるため、どちらの制度に当たるかを書類ごとに区別しておく必要があります。

制度の詳細は改正される可能性があるため、対応を進める際は国税庁・法務省など一次情報で最新の要件を確認することをお勧めします。

制度 対象 主な要件
電子帳簿保存法(電子取引データ保存) 請求書・領収書・注文書など電子で授受した取引データ 改ざん防止措置(タイムスタンプ、訂正削除履歴システム、事務処理規程等のいずれか)、検索機能の確保(事業者の状況により緩和あり)、適用される税法に定められた期間の保存(法人の帳簿書類は原則7年、例外あり)
電子署名法 電子契約・電子文書への署名 本人だけが行うことができる固有性のある電子署名に該当すること、一定の要件を満たす場合に電子文書の真正な成立が推定されること(契約の成立・有効性そのものとは別の論点)

ペーパーレス化を進めるツール・システムの選び方

文書管理システムや電子契約サービスなど複数のツールを比較検討する担当者の線画イラスト

対象書類の優先順位が決まったら、それぞれに適したツールを検討します。書類の種類によって必要な機能が異なるため、一つのシステムで全てを解決しようとしない方が現実的です。

文書管理・ワークフローシステム

社内の申請書や会議資料、回覧文書には、文書管理システムやワークフローシステムが向いています。検索性の確保や承認フローの電子化、アクセス権限の管理といった機能が中心です。

電子契約サービス・OCR

契約書には電子契約サービス、紙で受け取った書類のデータ化には、スキャナ保存の要件を満たす保存方法が向いています。

文字認識によるデータ入力を効率化する手段としてAI-OCRを併用するケースもありますが、AI-OCRの利用自体がスキャナ保存の法定要件を満たすわけではない点に注意が必要です。入力期間・検索性・訂正削除防止などの要件は別途確認します。

電子契約サービスを選ぶ際は、前述の電子署名法の考え方に沿った仕組みになっているかを確認します。

選定時に比較すべき観点

ツール選定では、対応できる書類の種類、コストの規模感、セキュリティ機能、既存の会計システムや基幹システムとの連携のしやすさを比較します。機能が豊富なほど高コストになる傾向があるため、まず対応したい書類の範囲を決めてから、必要な機能に絞って比較することが選定を早めるポイントです。

複数のベンダーから見積もりを取り、無料トライアル期間がある場合は実際の書類で試用してから本導入を決めると、現場で使われないまま終わるリスクを減らせます。

分類 向いている書類 主な機能 料金体系の傾向
文書管理システム 社内文書・会議資料 検索・保管・アクセス権限管理 利用人数・容量・初期設定に応じた月額制が中心
ワークフローシステム 申請書・社内回覧 承認フロー電子化・履歴管理 利用人数・連携範囲に応じた月額制が中心
電子契約サービス 契約書・注文書 電子署名、締結証跡の管理、契約書保管、タイムスタンプ等 従量課金または月額制(サービスにより方式が異なる)
AI-OCR 紙で受領した書類 文字認識・データ化 導入規模に応じた従量課金・月額制が中心

料金体系は製品・利用人数・連携範囲によって大きく変動するため、具体的な金額は複数ベンダーから見積もりを取って比較する必要があります。小規模な範囲で試行してから全社展開を検討する進め方が実務的です。

導入費用の一部は、現行の「デジタル化・AI導入補助金」(旧IT導入補助金)など、紙帳票の電子化ツールを対象に含み得る補助金制度で軽減できる場合があります。

ただし対象となるのは、事務局にあらかじめ登録されたITツール・IT導入支援事業者を通じた導入に限られ、申請者の業種・資本金・従業員規模等の条件もあります。交付決定前に契約・発注したものは対象外になるため、申請前に最新の公募要領を確認することをお勧めします。

ペーパーレス化の進め方

スモールステップで一歩ずつペーパーレス化を進める担当者の線画イラスト

ツールが決まっても、全社に一斉導入すると定着しないまま終わることがあります。段階を踏んだ進め方が、浸透までの近道になります。

スモールステップで始める

最初から全社・全書類を対象にするのではなく、1つの部署や1種類の書類から試行することをお勧めします。小さな範囲で運用し、課題を把握してから対象を広げる方が、現場の抵抗を抑えながら進められます。

試行期間は、対象書類の量や既存システムとの連携範囲によって幅がありますが、小規模な試行では1〜3カ月程度を一つの目安として設定し、実際の運用結果を見ながら次の範囲へ広げる計画にすると、無理なく進めやすくなります。

運用ルールの整備と周知

どの書類をどう電子化し、どこに保存し、誰がアクセスできるのかというルールを明文化します。承認の権限者や例外対応の手順も、このタイミングで決めておくと後戻りが少なくなります。ルールが曖昧なまま導入すると、各部署が独自の運用を始めてしまい、後から統一する手間が増えます。説明会やマニュアル配布を通じて、現場に浸透させる期間を確保します。

定着のためのフォローアップ

導入直後は、紙の運用に戻ってしまう従業員も出てきます。利用率、差し戻し件数、紙への逆戻り件数などを定期的に確認し、使いにくい点があれば早めに改善することが定着の鍵です。確認期間は対象範囲や業務サイクルに応じて設定するものですが、導入から半年程度を一つの区切りとして定着状況を見直す企業も見られます。

社内体制・人材要件

推進担当者と専門家が社内体制づくりについて話し合う線画イラスト

ペーパーレス化を進めるには、誰が推進役を担うのかを決めておく必要があります。

推進担当者の役割

総務・情報システム部門が中心になることが多いですが、実際に書類を使う各部署の担当者を巻き込むことが欠かせません。現場の業務を理解していない担当者だけで進めると、実務に合わないルールになりがちです。部署をまたいだ推進チームを作り、各部署の代表者が自部署の運用状況を持ち寄って調整する体制を取ると、全社展開後の運用のばらつきを抑えやすくなります。

外部専門家との連携という選択肢

社内にシステム選定やDX推進のノウハウが十分でない場合、外部の専門家に相談するという選択肢もあります。

TechHouse.Worksでは、中堅企業のDX推進を、デジタル化・顧客接点の改革・新規事業の創出という順序で考える視点を提案しており、ペーパーレス化はこの最初の段階に位置づけられる取り組みです。社内のリソースだけで進めるか、外部の視点を取り入れるか迷う場合は、お問い合わせからご相談いただけます。

業種別に見るペーパーレス化の論点

ハウスメーカーや建設業など業種ごとの特有の論点を話し合う担当者の線画イラスト

業種によって対象となる書類の性質や、注意すべき点が異なります。ここでは中堅企業に多いハウスメーカー・不動産・建設業界を例に整理します。

ハウスメーカー・不動産業界での論点

契約書・重要事項説明書・図面など、宅地建物取引業法をはじめとする法令で説明方法や保存が定められた書類を多く扱う業界です。重要事項説明は従来対面が前提とされてきましたが、双方向の通信環境の確保や事前の書類交付など一定の要件を満たせば、IT(オンライン)を活用した説明も可能になっています(国土交通省)。

重要事項説明書等を電磁的方法で提供する場合は、相手方の事前承諾など別途の要件があるため、電子契約サービスを導入する際は取引の形態ごとに要件を確認する必要があります。顧客との契約期間が長期にわたる業界でもあるため、保存期間を過ぎた書類の廃棄ルールも併せて整備しておくと、保管コストの圧縮につながります。

建設業界での論点

現場で発生する書類(施工図・検査記録・安全管理記録・日報など)が多く、現場担当者がオフィスに戻らずその場で入力・確認できる仕組みが求められます。タブレットやスマートフォンからアクセスできるシステムを選ぶことが、現場での定着を左右します。

また、建設業法上、書面交付に代えて電磁的方法を用いる場合には、相手方の承諾など契約類型に応じた要件の確認が必要になるなど、協力会社とのやり取りが発生する業務では取引先側の電子化対応状況にも左右されるため、自社だけでなく取引先を含めた移行スケジュールの調整が必要になります(国土交通省)。

ペーパーレス化の成功パターンと失敗パターン

ペーパーレス化の成功パターンと失敗パターンを見比べる担当者の線画イラスト

実際の取り組みに共通する傾向を、一般化したパターンとして整理します。個別企業の実績として断定するものではなく、進め方の参考情報として捉えてください。

成功しやすいパターン

対象書類を絞って小さく始め、効果を社内に共有しながら範囲を広げる進め方は、現場の抵抗を抑えやすく、定着につながりやすいパターンとして想定されます。また、推進担当者が現場の意見を聞きながらルールを調整することも、形骸化を避けるうえで有効と考えられます。

失敗しやすいパターン

目的を明確にせず「とりあえず電子化する」ことを目標にしてしまうと、現場が電子化の意味を理解できず、紙の運用に戻ってしまいやすいパターンとして想定されます。また、ルールを決めずに導入を進めた結果、各部署で運用が分かれてしまい、後から統一する負担が生じるケースも考えられます。

経営層が主導して導入を決めたものの、現場への説明や研修の時間を十分に取らなかった結果、システムが使われないまま放置されるというパターンも、つまずきやすい例として挙げられます。

ペーパーレス化を始める前のチェックリスト

着手前のチェックリストを一つずつ確認し合う担当者の線画イラスト

着手前に、以下の項目を確認しておくと、進め方の抜け漏れを防げます。まずは全社共通で確認すべき項目です。

  • 対象にしたい書類の種類と、それぞれの発生頻度・保管コストを把握しているか
  • 書類を「電子で授受」「紙で受領後にスキャン」「最初から電子作成」の3区分で整理し、電子帳簿保存法の対象になる書類を区別できているか
  • 電子化の目的(コスト削減・業務効率化・法対応など)を社内で共有できているか
  • 最初に試行する部署・書類の範囲を1つに絞れているか
  • 運用ルール(保存場所・アクセス権限・保存期間)を誰が決めるか明確になっているか
  • 導入後のフォローアップ担当と確認期間を決めているか

部門によって対象書類の性質が異なるため、着手する部門ごとにも確認しておきたい観点があります。

  • 総務・経理部門:請求書・領収書など電子帳簿保存法の対象書類を優先的に洗い出せているか
  • 人事部門:契約書・雇用関連書類の保存期間と、個人情報を含む書類のアクセス権限を整理できているか
  • 営業・現場部門:取引先が電子化にどこまで対応できるか、個別に確認できているか

よくある質問(FAQ)

Q1. ペーパーレス化と電子化の違いは何ですか?

電子化は紙をデータに変換する作業そのものを指すのに対し、ペーパーレス化はその電子化を手段として、紙運用自体をやめていく取り組みを指します。電子化はペーパーレス化を実現するための手段の一つという関係です。

Q2. ペーパーレス化はどこから始めればよいですか?

発生頻度が高く、保管コストがかさんでいる書類から始めることをお勧めします。電子データで授受した請求書・領収書・注文書等は、電子帳簿保存法の電子取引データ保存の対象になり得るため、優先度が高くなります。

Q3. 電子帳簿保存法に対応しないとどうなりますか?

電子取引データを要件に沿って保存していない場合、税務調査で保存義務違反とされるリスクがあります。紙に印刷して保存するだけでは、2024年1月以降の保存要件を満たさない点に注意が必要です(国税庁)。なお、相当の理由がありダウンロード等の求めに応じられる場合は、保存要件によらない保存が認められる措置もあります。

Q4. 中小企業でもペーパーレス化は進めやすいですか?

全社一斉に進める必要はなく、部署や書類単位で段階的に進められます。「デジタル化・AI導入補助金」など、紙帳票の電子化ツールを対象に含み得る補助金制度を活用すれば、導入コストの負担を抑えられる場合もありますが、対象ツールの登録状況や自社の業種・規模が申請条件を満たすかは、公募要領で個別に確認が必要です。

Q5. ペーパーレス化によって紙の書類をすべて廃棄してよいですか?

法令で保存が義務付けられている書類は、電子化後も要件を満たした形で保存を続ける必要があります。廃棄できるかどうかは書類の種類ごとに異なるうえ、税法上の保存期間を満たしていても他の法令や社内規程で保管が必要な場合があるため、保存義務の有無を個別に確認してから判断することをお勧めします。

Q6. ペーパーレス化とDX推進はどう関係しますか?

TechHouse.Worksでは、中堅企業のDX推進を、デジタル化、顧客接点の改革、新規事業の創出という順序で進める考え方を提案しています。ペーパーレス化はこの最初の段階に当たる取り組みです。ただし、この順序は必須のプロセスではなく、経営課題や事業特性に応じて複数の取り組みを並行して進める企業もあります。

Q7. ペーパーレス化の導入にはどのくらいの期間がかかりますか?

対象とする部署や書類の範囲によって幅がありますが、1つの部署・1種類の書類から試行する場合、試行期間として1〜3カ月、その後の定着確認期間として半年程度を一つの目安にしておくと、計画を立てやすくなります。これらは標準的な実績値ではなく計画上の目安であり、対象範囲を広げるほど、社内への周知や運用ルールの調整にかかる時間も増える点を踏まえて見直すことをお勧めします。

まとめ

ペーパーレス化は、紙の書類・手続きを電子データに置き換えることで、コスト削減や業務効率の向上、多様な働き方への対応を実現する取り組みです。一方で、電子帳簿保存法や電子契約・電子署名といった法制度への対応を正しく理解したうえで、対象書類の棚卸し、ツール選定、社内ルールの整備という段階を踏むことが欠かせません。

全社一斉に進めるのではなく、小さな範囲で試行し、効果を確認しながら広げていくことが、定着への近道です。

ペーパーレス化は、紙の処理に取られていた時間を減らすだけでなく、その先の顧客接点改革や新規事業への土台づくりでもあります。TechHouse.Worksは、出資(最大500万円)と継続的な伴走支援を組み合わせたスタートアップスタジオモデルで、新規事業・DX推進に取り組む企業を支援しています。

自社の次の一手をどう組み立てるか検討されている方は、お気軽にご相談ください。なお、挑戦者への伴走という思想についてより深く知りたい方は、noteでも発信しています。